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高齢者における継続的な運動・スポーツが体力および情緒・行動面に及ぼす影響
−運動クラブに所属する高齢者の4年後の追跡調査−


 まとめ
 高齢者における継続的な運動・スポーツの影響を体力および情緒面,生活面から評価することを目的に,平成6年に調査した運動クラブ所属者を対象として平成10年に追跡調査を行った.両年とも調査に協力のあった29名(男性7名,女性22名,平成10年調査時平均年齢72.7±4.7歳)のデータによって,4年後の実態について検討し,以下の結果を得た.
1)「健康,まあ健康」とする者は,平成6年(男性83.3%,女性85.0%),平成10年(男性100%,女性90.9%)ともに高率で,対象者の健康感は良好であった.
2)体カテストの成績では,筋力系(握力,垂直とび)において4年後に低下傾向が認められたが,他の体力要素(平衡性,柔軟性,敏捷性,持久性)はほぼ同様,あるいは若干の向上傾向が認められた.また,主観的な体力は,女性において有意な低下を示した.
3)GDS得点の4年間の変動は少なく,対象者の情緒面は安定していた.
4)体力項目やGDS得点の2回(平成6年と平成10年)の測定値間には高い有意な関連が認められた.
5)生活時間では,男性の外出時間が4年後にやや減少傾向にあったが,散歩時間は男女ともに増加傾向を示した.
6)運動クラブを継続している理由としては,「楽しい」(96.3%),「心地よい汗がかける」「人との交流」(いずれも92.6%)が「健康によい」(85.2%),「運動不足解消」(77.8%),「体力がつく」(74.1%)を上回った.
7)クラブ活動を継続した効果として,身体面では「食欲が出てきた」(47.8%),「ぐっすり眠れる」(44.4%),「転ばなくなった」(40.9%),精神面では「活発になった」(70.8%),「明るくなった」(65.4%),「考え方が前向きになった」(60.0%),生活面では「人間関係がひろがった」(88.9%),「自分を大切にするようになった」(84.0%),「人づき合いがよくなった」(80.0%)に回答が多かった.
 以上より,高齢期における運動・スポーツの継続は,加齢による体力の低下を抑制するばかりでなく,情緒を安定させ,人間関係や生活面にも良い影響をもたらし,高齢者のQOLを高める重要な要因であることが示唆される.


 文  献

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