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体力レベルの高い中高年齢女性における椅子からの立ち上がり動作特性

 高齢化社会を目前に控え,高齢者の自立が大きな社会問題として取り上げられるようになってきた.高齢者が自立した生活を営むための基本は,自らの力で自由に動き回れることである5).そのための基本的能力の一つが歩行能力である.歩行時の速度や歩幅は,多くの生理機能と同様に加齢に伴い低下するが6),筋力1,2)や呼吸循環機能3)などの運動の発現や維持に関わる生理機能との関連性が指摘されている.特に歩行速度の低下は下肢の筋力の低下と相関し1),下肢の筋力を高めそれを維持することが,高齢者の身体的自立性の確保にとって重要であることが伺われる.Sipilaら11)は,椅子からの繰り返し起立に要する時間(椅子起立時間)が力量計による下肢筋の筋力と関係が深いことを見い出し,簡便な下肢筋の筋力測定法となることを提言している.しかし,椅子起立時間と歩行能力との関連性やトレーニングによる影響についてはっまびらかではない.
 そこで本研究では,高齢者の身体的自立性の向上と維持のための方策を検討する一助として,中高年男女の椅子起立時間を測定し,歩行速度との関係およびトレーニングに伴う変化について検討を加えた.

 研究方法
 1.被験者
 被験者には千葉県K市の健康増進事業に参加した中高年女性30名(年齢46〜65歳,平均57±5歳)と男性20名(年齢57〜65歳,平均62±2歳)を用いた.彼らは1日75分,1週間に2日の頻度で,17回にわたって行われた健康づくりのためのトレーニング教室に参加し,その前後に下肢筋力と歩行能力に関する測定を受けた.トレーニング教室においては,ストレッチを中心とした準備運動および整理運動(20分〜25分)のほか,マット運動,棒運動を中心とした動きづくり,器具を使用しない筋力運動,歩行,ジョギングおよびレクリエィショナルなゲームスポーツを適宜組み合わせたプログラムが休息を挟みながら,50分程度行われた.トレーニングヘの参加回数は女子が14±3回,男子が13±4回で,両群の間に有意な差は認められなかった.なお,測定に際しては,事前に被験者に対して,研究の主旨と内容を口頭で説明し,全員から承諾を得た.

 2.測定方法
 トレーニング前後における椅子起立時間および10m歩行テストは,つぎに示す手続きに従って測定した.
 1)椅子起立時間
 椅子からの起立時間は,OsukaとMcCarty10)の方法に従って測定した.各被験者を体育館の床上に置かれた高さ40cm,奥行き45cmの椅子に座らせ,その姿勢から起立して直立姿勢を取る運動を10回連続して行わせた.このときの所要時間を,市販のデジタル式ストップウォッチを用いて1/100秒単位で測定した.被験者にはできる限り素早く起立動作を反復するように指示したが,起立時に上肢による補助動作を行うことは禁じた.また,被験者には運動靴の着用を許した.
 2)歩行能力
 最大努力による10mの直線歩行テストを行わせ,所要時間を市販のストップウォッチを用いて1/100秒単位で記録した.歩行速度m/分は,歩行距離を所要時間で除することによって求めた.

 2.統計分析
 男女間の平均値の差は対応のないStudentのt-testを用いて,トレーニング前後における各測定変量間の平均値の差は対応のあるStudentのt-testを用いて,有意性を検定した.また,各変量間の関連性は,ピアソンの積率相関係数を求めて評価した.いずれの場合も,有意水準はp<0.05にセットした.



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