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在宅高齢者の生活体力と日常生活状況との関連


 考  察
 本研究は,地域に居住する65歳以上の自立高齢者の約8割を対象としており,わが国の農村地域に居住する自立高齢者の身体的生活機能としての生活体力に関連する種々の要因を解明するうえで極めて大きな意義を有するものと考えられる.前回の研究3)では,生活体力と身体的な健康状態との関連について検討し,生活体力が過去および現在の疾病や障害の有無,栄養状態や臓器レベルの老化や障害の程度を示す血液性状など多様な医学的健康指標と関連していることが明らかになった.今回は生活体力と現在の生活状況との関連を明らかにする事を目的としたものであり,本結果は活動的な余命の延長を図り生活の質(QOL)を維持する事を目標とするわが国の今後の高齢者保健対策を考えるうえで重要な意義を有するものと思われる.

 1.基本属性と生活体力との関係
 本研究で用いた生活体力は,高齢者の身体的自立能力を評価するものであり,その水準が高いことは日常生活を自立して営むための総合的な動作能力が高いことを意味し,生活自立のための身体的予備力が大きいことを示唆する.本研究における対象者の生活状況のなかで,基本属性の項目で男女に共通した生活体力に対する関連要因は年齢であり,高齢者の生活体力の大きな低下要因であることが示唆された.このことは生活体力を構成するそれぞれの生活動作が種々の運動機能の動員により成り立っており,それらの機能が加齢に伴い低下することを反映した結果と解される.
 女性においては,配偶者「有り」の者に比べて配偶者「無し」の者で生活体力が低い関係が見られ,配偶者の有無が生活体力の低下要因になる可能性が示唆された.ADL指標を用いたこれまでの研究では,配偶者の有無に関しては明らかな関係を認めないとするものが多く報告されている9,13,15).しかし,長田ら11)は75歳以上の比較的身体状況の良好な後期高齢者においては配偶者と「同居無し」の者は「同居有り」の者に比べて抑うつ度が有意に高く,そのような抑うつ状態は握力や移動能力との間に強い負の関連を有することを報告している.したがって,本研究の女性高齢者では配偶者との死・離別というlife eventが強い精神的ストレスとなり抑うつ状態がもたらされ,その結果として運動機能に対する直接的な影響や生活体力測定に対する精神的な意欲の低下といった間接的な影響が生じた可能性が考えられる,なお,このような関係は有意ではないが男性でも同様な傾向が見られたことから,配偶者を失った高齢者に対しては単に身体的側面のみならず,精神的側面にも十分に配慮した保健対策やサービスが必要と思われる.
 女性において,最終学歴が高い者ほど生活体力が高いという有意な関係が認められたが,このことは知的水準や経済状態を反映した結果と解釈される.すなわち,学歴の高い者は知的水準も高く,経済状態が良好であり,社会的な活動に対する関心も高いことが報告されており8),このような社会経済的状態の良好さが身体機能の良好さにつながり,生活体力に反映されたものと推察される.なお,このような知的水準の高さはADLの障害程度4)や余命12)とも関連していることが報告されている.


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