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ジュニアユースサッカ選手に対する10ヵ月間のトレーニングの影響


 考  察
 本研究の目的はジュニアユースサッカー選手を対象に,クラブにて通常行っているトレーニングが,10ヵ月の間に選手の形態的および機能的特徴にどのような影響を与えているかを明らかにすることであった.これまでにサッカー選手のトレーニングに関する研究は国内外においていくつか報告されている1,5,8,9).しかし,それらの報告のほとんどは大学生や成人のサッカー選手を対象としたものであり,年少者を対象としたものは著者らの知る限り,四倉らの報告8)のみである.四倉らは1日約2時間のサッカーのトレーニングを週に2回の頻度で行っている小学4年生男子14名のVo2max/wtと最大無酸素パワーを1年後に測定したところ,有意な増大がみられたと報告している.しかし,対象となっている選手は地域のサッカー少年団に所属している選手であり,本研究とは指導体制とその目的や被検者の年齢からみて十分な比較検討対象とはならない.
 本研究の結果では,形態的特徴は1997年12月と1998年10月の身長の平均値が159.6cmと165.5cm,体重が47.6kgと50.8kgであった.これらの値を同年代の日本人の平均値10)と比較すると,ほぼ同様な結果であったことから,身長と体重の増加は発育による一般的変化であったと考えられる.皮下脂肪厚については,各部位において減少傾向がみられたことから,体重の増加は除脂肪体重の増加の占める割合が大きいものと考えられる.
等速性脚伸展・屈曲力と脚伸展パワーは,ともに有意な増大がみられた.しかし,これらの体力指標は,一般的にいって発育期においては体重の増加に伴って増大する性向にある.そこで体重あたりの値をみると,増大したのは右屈曲力と左伸展力だけである.すなわち,今回の10ヵ月のトレーニングでは,筋機能に対する特異的な効果はここには明確には現れなかったのではないかと考えられる.そして,他の筋力と筋パワーは体重の増加に比例した増大であったものと考えられる.
 次に,走能力と全身持久力についてみると,50m走,Vo2maxおよびVo2max/wtはこれまでに同年代の日本人の平均値が報告されており10),それらと比較したところ,本研究の被検者は同年代の平均値を大きく上回っていた.しかし,小林4)が報告しているほぼ同年代の男子ジュニア陸上中長距離選手に比較すると劣っていた.また,小林4)はVo2maxの縦断的変化についても,本研究の被検者と同年代の一般生徒と男子ジュニア陸上中長距離選手を対象に報告している.一般生徒では中学1年の平均値が1.91l/min,中学2年では2.34l/minに増大していた.一方,陸上中長距離選手の場合は年齢が若干高くなるが,14.8歳の平均値が3.54l/minから,1年後には3.88l/minに増大していたと報告している.本研究においてもVo2maxには有意な増大はみられたものの,Vo2max/kgは有意に減少した.このVo2maxもまた,体重の増加に伴い増大する性向にある事から,Vo2max/wtの減少は本トレーニング計画全体について極めて大きな課題となろう.
 その問題点の在り所として,少なくとも二つの要因が考えられる.一つはトレーニング内容である.本研究と同じ世代の者のVo2maxに関するトレーニング効果のまとめ5,7)のをみると,持久力の向上に費やすトレーニングの量,なかでも時間が本研究よりも多いのである.しかし,Vo2maxの増大だけを目的に,本研究でのトレーニング内容を変えることは得策とは考えられない.もう一点は,被検者の年齢である.本研究の被検者の年齢はほぼ13歳であったが,この年齢は効果が顕著ではない,との指摘が発育期の若年者の研究ではみられるのである.
 以上のことから,本研究で対象としたジュニアユースサッカー選手が行っているトレーニングの影響は,形態的特徴については,体重の増加には除脂肪体重の増加が優勢であったものと推察される.機能的特徴については,全般に高いレベルでの体力維持には効果的ではあったものの,顕著な増大効果は見られなかったものと結論づけられる.


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