中学生女子バレーボール部員の部活動への意識と部員−顧問間の相互理解度との関連
3.相互理解度のずれと部員の部活動への意識並びにTSM1尺度得点との関連
1)部員理解度のずれについて
顧問がどの程度部員を理解しているかについての部員と顧問との主観的評価を比較すると,部員の主観的評価が顧問の主観的評価よりも小さいために両者にずれが生じていた.このずれが小さいほど部活動への意識の多くのカテゴリーで高い得点となっていた.この傾向は,TSMIのいくつかの尺度についても見いだされ,競技意欲側面でもずれが小さい方が望ましいと考えることができる.これらは,部員理解度について考えるにあたっては,主観的評価の高低ばかりでなく,両者のずれについても留意する必要性を示唆するものと解することができる.
2)顧問理解度のずれについて
部員がどの程度顧問を理解しているかについての部員と顧問との主観的評価の間にもずれが生じていた.このずれと部員の部活動への意識との関連では,いくつかのカテゴリー得点について部員理解度と同様な傾向が見いだされ,TSMIの尺度得点との関連でも同様であった.顧問がどれほど部員に理解されているかを考えるにあたっても,このずれへの配慮が必要であろう.
4.学年差について
部員を対象とした部活動への意識調査やTSMIについて,有意な学年差がみられた部分では,TSMIの勝利志向性を除き,1年生が他の学年に較べてより望ましい得点となる傾向がみられた(2,3年生間では有意差なし).これは,学年が進むにつれて,より望ましくない傾向になると解釈することもできるが,調査の実施が5〜6月であったので,1年生については入部してから日が浅い,部活動への期待が高く,部活動の楽しさがわかりはじめた時期にあたり,1年生の得点が高いという結果が生じたと考えることもできる.2・3年生になると試合経験も多くなり,より勝ちたいという気持ちのため勝利志向性が高くなったり,また逆に失敗不安や緊張性不安が高くなると思われる.
部員−顧問の相互理解度においては,部員の主観的評価,顧問の主観的評価ともに,学年が進むにつれて高くなる傾向がみられる.1年生では,部員にとっても,顧問にとっても新しく出会った同士で,お互い未知の部分が大きく,相互の理解度についての主観的評価が低いが,それが学年が進むにつれて高まってくるものと考えることができる.部員の主観的評価と顧問の主観的評価のずれについては,1年生では部員理解度,顧問理解度ともに有意な差がみられなかったが,2年生・3年生では有意な差となっている.学年が進むにつれて,顧問の側でのより理解している,または理解されているという判断が部員のそれより大きくなっていくことがその原因であるとみることができる.いわばある種の思いこみが生じ増大していくとも考えられる.
上述の部活動への意識や競技意欲についての学年差には,このずれの増大が関連していると推測することもできよう.すなわち,2年生・3年生では,部員−顧間間の相互理解に対する部員の主観的評価と顧問の主観的評価のずれが増大し,それが部活動への意識や競技意欲の消極化をもたらしているとみなすことも可能であろう.部員と顧問のそれぞれの思い(主観的評価)の差が大きくなることは,指導的にみても好ましい状態ではなく,指導者は部員との相互理解の側面でも,相手の立場から状況を捉え直す必要があるのではなかろうか.
部員一顧間間の相互理解についての上記の傾向は,落合たち9)でも見いだされていたが,1つの運動部を対象とした事例的研究であり,サンプル数が少なかったため一般的傾向とは言い切れず,考察にあたっても対象とした部活動の固有の事情を考慮した.本研究の結果は,この傾向が一般的にもあてはまる可能性を示唆するものと考えられる.
5.理解度0%の事例について
部員の主観的評価による部員理解度,顧問理解度の調査で0%と答えた部員が3名いたが,これは,自分を全くわかってもらっていない,顧問を全くわかっていないという極めて稀なケースであると見ることができる.部員一顧間間の対人関係が隔絶に近い状態とも考えられ,今後個々に十分な対応をしていくなどフォローアップの必要があると思われる.
顧問の主観的評価による部員理解,顧問理解において0%と評価された部員は,それぞれ17名,16名いたが,これは同一の顧問の主観的評価であった.すべて1年生であったことから,5〜6月の時期に,まだ新入生である1年生に対して,多少は理解しているものの理解できていない部分が大きいことから,心情的に0%と決めつけてしまったケースであると考えられる.
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