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バレー部に所属している女子中学生の食生活の実態調査

 厚生省が毎年実施している国民栄養調査の報告によると,平均した日本人の栄養素等摂取状況は概ね良好であると評価されている. しかし,平成7年度調査より年齢階級別の栄養素等摂取量を解析したところ,当該年齢の所要量と比較して10歳代後半から20歳代,30歳 代において男女いずれも脂肪エネルギー比率が高いこと,カルシウムの摂取量が少ないこと,そして女性の鉄摂取量が少ないことが明 らかとなった10).日本人の平均的な食生活は健康的であると考えられているが,思春期および青年期では栄養摂取状況に問題がある ことが全国調査からも懸念されている.
これまでの中学生期における健康や食生活の問題に関する報告では,食品選択の偏り,運動不足,生活習慣病の若年化など,食生活や生 活習慣が深く係わるものがとりあげられてきた1-3,6,7,12,13).われわれは,前報4)において男子中学生の食事記録からみた栄養摂取状 況には,脂質の過剰摂取および食物繊維の摂取不足といった問題があることを指摘した.このように個別の栄養素の過不足を明らかに することは,具体的な食品の選択能力を高めるための食教育を実施するうえで大変重要である.一方,健康に対する姿勢や意識は,健康 に関連する生活習慣を規定していると考えられている11,13).このような対象者の意識や姿勢などと栄養摂取状況との間に関連性が あるとすれば,それは望ましい食習慣を身につけるための食教育を展開する上で,その方向性を示唆する有意義な情報となると考えら れる.
 前報4)では運動部に所属する公立中学校の男子生徒を対象とした食生活の実態調査を行ったが,必ずしも女子生徒が男子と同じ栄養 摂取上の問題点を抱えているとは限らない.また栄養補給の面で十分な配慮がなされている学校給食がある公立中学校と,学校給食が ない私立中学校の違いもあると思われる.本研究では,私立女子中学校を対象に,運動部に所属しており比較的活動的な日常生活を過ご していると思われる女子生徒の栄養摂取状況を検討することを目的とし,写真記録法を併用した食事記録調査ならびに自記式質問紙を 用いた食生活調査を実施した.食事記録から個人のエネルギーならびに栄養素摂取量を算出し,栄養素密度といった基準化した数値に 換算し栄養摂取水準を検討する一方で,基準化した数値を用いて主成分分析を行い,対象集団の栄養摂取状況全体の特徴を検討した.さ らに,栄養摂取状況からみた食事の構造と,質問紙調査によって得られた食習慣や食意識,食情報に対する関心などとの関連を検討する ことによって,適切な食教育を展開するための方向性について考究することを試みた.

研究方法
1.対象者
 校長および部活顧問の協力の得られた都内の私立女子中学校のバレー部員を対象とした.なお調査に先立っては,校長およびバレー部顧 問の教員に本研究の主旨,方法などを説明し承諾を得た後,同様の説明を,生徒には口頭で父兄には文書にて行った.その後,バレー部員35 名のうち父兄と本人連名の承諾書の提出によって調査同意が確認でき,かつ3日間の食事記録が得られた1年生9名,2年生2名,3年生4名の計 15名を調査対象とした.

2.調査方法
 調査は,1,2年生は1998年6月に,3年生は1998年8月に形態測定,連続した3日間の食事記録調査ならびに食生活状況に関する自記式質問紙調 査を実施した.食事記録は,前報4)と同様,食事記録用紙とレンズ付きフィルムを併用した方法を用い,自記式質問紙調査用紙と一緒に調査 員が記入もれの有無等を確認したうえで回収した.
 栄養摂取状況は,食事調査のトレーニングを積んだ管理栄養士が,食事の写真ならびに食事記録をもとに摂取した食品の種類および重 量を求め,栄養計算ソフト(『エクセル栄養君ver2.OMac版』建帛社)を用いて1日ごとのエネルギーならびに栄養素摂取量を計算した.さ らに体格や活動量の違いといった個人差を考慮するため,体重1kg当たりのエネルギーならびにたんぱく質摂取量,および摂取エネルギー 1,000kca1当たりの栄養素摂取量(栄養素密度)を算出した.この栄養素密度からみた栄養所要量に対する充足率を求めることによって,対 象者の栄養摂取水準を検討した.つぎに,栄養摂取状況全体の特徴を検討するため,所要量に対する充足率,体重1kg当たりのエネルギー摂 取量,エネルギー摂取量に占めるたんぱく質,脂質,糖質のエネルギー割合(PFC比)を用いて主成分分析を行い,バリマックス回転法を使用 して3因子を抽出し,その解釈を試みた.
 自記式質問紙調査では,体重の測定の有無,ボディーイメージ,食習慣,食意識,食情報に対する関心,自覚症状などについて質問した.
上記の主成分分析の結果得られた3因子の個人ごとの因子得点と形態測定結果ならびに自記式質問紙調査から得られた食意識,食情報に対 する関心などの変数との関係をpearsonの相関係数によって検討した.すべての分析および統計処理には,統計パッケージSPSS (Release6.1JfortheMac版)を使用した.


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