体育科学センター第8回公開講演会講演要旨 1
スポーツによる運動処方
加賀谷煕彦
1.全身持久力と健康
体力には「防衛体力」と「行動体力」という2つの面がある。前者は、外界から人体に与えられるさまざまな刺激に対する
抵抗力をさすものであり、後者は、人体が自分のエネルギーを外界に発揮することによって、何らかの作業、活動をなすときの
体力のことをいう。防衛体力は自らの健康を守るための体力という意味で「生存性の体力」とも呼ばれ、これに対し行動体
力は「生産性の体力」といわれる。
一般に知られているように、運動が不足すると筋力、スピード能力、持久力などの行動体力が低下するが、このことが防衛体
力あるいは健康との関連で問題にするときに重視しなければならないのは、「持久力の低下」ということである。その理由を
特に成人についていうと、筋力やスピード能力の低下は、健康を守るという意味では一義的な意味を持たないのに対し、持久
力の低下している場合には、必ずといってよいほど防衛体力の弱体化が見られるからである。当然のことながら、持久力の低
下は運動時間の不足、運動量の減少によって生じるものであり、一方、運動不足は次に述べる「成人病のリスクファクター(危
険因子)」をうみだすものである。したがって、持久力をある水準に維持している人は成人病におかされる危険性が少なく、ま
た、持久性を高めるべく運動を実施することは成人病の予防につとめていることを意味するものである。
埼玉大学
於:国立教育会館大会議室 昭和55年7月12日
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