体育科学センター第5回公開講演会講演要旨 3
幼児の体力・調整カテストの検討
森下 はるみ
これまで報告されている幼少期を対象にした体カテストあるいは運動発達テストは、測定法からみれば大きく2つに分ける
ことができる。その1つは、ある課題行動が獲得されているか否かをみるもので、発達診断に用いられるテストの多くはこれに
属する。いま1つは、どれだけはやく走れるか……とか、どれだけ高く跳べるか、といった運動成果の上限値をもとめるもので、
普通体カテストといわれるもの、大部分はこれに属する。今回は、すでに標準化がこころみられているテストのいくつかについ
て、その特性と今後の問題点につき考えてみたいとおもう。
発達診断的なテスト(以下発達テストとする)について
発達診断的なテストの代表的なものには、ゲゼルの「発達診断」(Developmental Diagnosis)がある。ゲゼル以外の発達テスト,
たとえばビューラーのものもイリングワースのものも、日本における愛育研究所のものや津守らのものも、多かれ少なかれゲゼ
ルの方法に準じている。ここでは運動発達にかかわる系は、言語発達や社会性発達といった他の系と同時にテストされ、最終的な
発達診断をおこなう要因としてもちいられている。
この中で、とくに運動発達系のものをみてみると、2歳以前の項目は、主にねがえりや直立、歩行といったほぼ一定の順序と規則
性をもってあらわれる体位やロコモーション様式などの発達系列からなっている。そこで種々な発達テスト相互に項目の選定
や順序、基準年齢についての大きな差異はないのが1つの特徴といえる。判定は課題の通過の有無をYes−No式にチェックする方法
がとられ、yesからnoへの変節期がそのまま運動発達レベルを示すことになる。順序や規則性のはっきりした運動の系列化がみら
れる2歳以前の場合は、有用なテストといえる。
この種テストの矛盾は、2歳以後になると顕在化する。その原因の1つは、この頃を境に、子どもの運動や行動が多様になること、
多様なものを包含しようとすれば1本の系でそれを発達順にまとめることができなくなること、直立や始歩期の発現を可能にし
た神経系の成熟度というような内在的要因よりは、学習や環境等が大きく影響しはじめることなどが一因として考えられる。こ
のような矛盾に対応するためには自転車こぎやぶらんこ乗りといった行動様式の多様化を項目にとり入れるよりは、2歳以前に
獲得された直立機能やロコモーション様式を中軸に、そのよりこまかい連続的な分節化を試みるのも一案といえる。ウエルマン
やベイリーらは、歩行や走・跳といった基本動作について、たとえば跳びおりを例にとれば、補助されておりられる→1人で片足
づつ着地しながらおりられる→1人で両足をそろえておりられる……といった動作パターンのよりこまかい系統化と、それに伴
用してどの位の高さから跳べるかといった量的指標をもちいた課題通過年齢の基準化を試みている。このように動作パターン
の変化という質的な指標と、運動課題や運動成果にみられる量的な指標の伴用は、幼少期、とくに2歳から学齢期までの幼児の動
作発達をみるのに有用であるといえる。
お茶の水女子大学
於:順天堂大学有山記念館講堂 昭和52年6月4日
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