3.調整力の発達的意義
幼児の運動成就と成人の運動成就は、同じ走運動について見ても、はっきりした差異が認められる。すなわち、
幼児の走運動は、
(1)手、足の運動が上手に協調することなく、各々独立に運動しているとさえ見られる。
(2)真直ぐ走れない事がある。
(3)手、足の運動のスピードが遅い。
(4)個人差が大きい。
成人の走運動は、
(1)手、足の運動は走という運動の目的に有効な形で協調されている。
(2)手、足の運動を早く連続させ得る。
(3)指導、練習によって、より早く、より長く走れるように技能を発達させ得る。
(4)短距離走にはO2負債や、脚の瞬発筋力が、長距離走にはO2摂取能力などの、調整力とはちがった能力が、より高い関与を示す。
(5)走運動の運動成就の仕方には余り個人差は見られず、むしろ、スピード、スピードの維持能力などの面に個人差が顕著に
なってくる。
これらの幼児と成人の走運動成就の差は、筋機能、循環呼吸機能の能力差は勿論のことであるが、最も重要な差異は神経と筋
との関連で考えられるneuromuscularの機能の差に依存する。
すなわち、幼児は全力を出して走ろうと努力したとしても、(1)大脳機能の分業が未熟、(2)神経回路の連絡の未熟さ、(3)筋機能が
瞬発的に力を出すことができるように筋機能の分化がなされていない。これらの理由と、瞬発的に強く収縮する筋の神経支配は
大脳によって行われることから、幼児の意図を十分に伝達して成就できるようにneuromuscular systemが発達していないので、全力で走ろうとしても走れないという生理的制限が幼児には存在すると考えられる。かかる制限が除かれて、成人とほぼ同様な走
り方ができるようになるのは9〜10歳頃以後と考えられる。この時期を境として、筋力発達も運動刺激を必要とするようになり、
性差も次第に大きくなり始めてくる。したがって、内分泌のバランスが変化し始める時期である。
このように、9〜10歳以前では、新しい運動パターンの成就を可能にし、それらがいかに安全に成就できるかという意味で
調整力は発達してゆき、この時期以後は、運動成就をいかに美しく、いかに力強く、いかに速く等の他の能力発揮をより有効に
運動成就に伝達させるかという意味で調整力が発達すると考えられる。このように、運動成就という立場で調整力を考える時、
幼児期は運動パターンの成就可能な数の増大が調整力発達の特質であり、児童中期以後は運動成就の質的発達によって特徴づ
けられるといえよう。
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