Fig. 2. Result of one-leg balancing with open and closed eyes.
ところで、血管内皮細胞由来の一酸化窒素(Nitric oxide:NO)は多様な生理作用を有することが次第に明らかにされてきている5,12)
。さらに亜酸化窒素(笑気Nitrous oxide:N2O)は手術の際麻酔ガスとして広く用いられているが、Beydon ら(1997)1)は亜酸化窒素と
睡眠無呼吸(sleepapnea)とは密接に関係すると報告している。最近、Mitsui ら(1997)8,9)はヒトの呼気中に亜酸化窒素が含まれるこ
と、また呼気中亜酸化窒素が検出される確率は、17−19歳では35.3%、20−39歳では43.8%、60歳以上では88.6%であると報告している。
本測定においても1名を除く全被検者の呼気中に亜酸化窒素が存在した。現段階において呼気中亜酸化窒素の生理学的作用につい
ては全く解明されていない。しかしながら、我々は先の研究においてT銀行陸上競技部に所属する長距離選手を対象に安静時呼気
ガス中の亜酸化窒素濃度([N2O])を測定した。各選手はこの数年間激しい持久的トレーニングを積んできており、平成10年度実業団
駅伝大会(京都)において準優勝していることから国内のトップあるいはそれに準ずるレベルの長距離ラナンナーであるが、選手
の5,000mベスト記録と[N2O]との間に有意な相関関係を有することを報告した。これらの結果は、N大学陸上部長距離選手にお
いても確かめられている11)ことから、高齢者においても[N2O]は持久的能力の指標となりうるかもしれない。そこで今回各被検者
のシャトルウォーキングの距離と[N2O]との関係を検討した結果、両者(シャトルウォーキング距離と[N2O])の間には統計的に有
意の関係(r2=0.036)は認められなかった。現在、ヒトや動物の口腔、消化管、上気道の中に多くの硝酸塩の微生物による還元(脱窒素)
作用をもつ各種のバクテリア(プリドモナス(pseudomonas)、ナイセリア(neisseria))などが見つかっていることから、これらのバク
テリアの作用によって呼気中に亜酸化窒素が排出される可能性が考えられている。しかしながら、何故安静時呼気中亜酸化窒素
濃度と非常に優秀な長距離選手の5,000mのベスト記録との間に有意の相関関係が認められ、一般高齢者のシャトルウォーキング
の距離とは無関係であったかについての理由については明らかでない。安静時呼気中亜酸化窒素濃度が優秀な長距離ランナーの
みならず一般の高齢者の全身持久性能力のパフォーマンスの指標となり得るか否かについては今後の興味ある検討課題の1つか
もしれない。
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