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 重心の上下動と左右動は、平均値で比較すると高齢群と若年群との間で有意差が見られなかった(表1、2)。HagemanとBlanke4) も、20-35歳の女性13名と60-84歳の女性13名の自由歩行における重心の上下動と左右動を測定し、いずれも両群間に差がなか ったと報告している。しかしながら、この重心動を歩行速度に対してプロットして同一速度で比較した場合、男性高齢群の重心 上下動は若年群より大きい値を示し、この傾向は身長差を考慮しても変わらなかった。重心の上下動は、男性の場合、歩行速度と 有意な正の相関を示したが、これは図5で示したように、速度の増加に伴う歩幅の増加によるところが大きい。しかし、同一歩幅 で比較しても、男性の場合、高齢群の上下動は若年群より大きい値を示し、これらの傾向は身長差を補正しても変わらなかった。 重心の上下方向の動きは、片脚支持期の中間でスイング脚が支持脚と交差する付近で最も高くなるが、この局面はスイング足 の爪先が床面に最も近づくのと同時期である。高齢群の最小爪先高は若年群より大きかったが、その差が男性の方が大きかっ たことを考えると、高齢男性はスイング中間期でスイング脚を高くあげていたことが重心の最高点をより高くして重心上下 動を大きくしていた可能性が示唆される。
 歩隔については、男性の場合高齢群と若年群で差が見られなかったが、女性の場合、高齢群が若年群より小さかった。Hageman とBlanke4)は、爪先で歩隔を測定し、高齢群女性と若年群女性の歩隔に有意な差は見られなかったと報告している。Kaneko6) は、48-82歳の女性57名について、爪先で歩隔を測定し、50歳群から70歳群では差がなかったが、80歳群で有意に増加したと報告 している。Murrayら10)は1964年に、20-65歳の男性60名について、足関節の中心で歩隔を測定し、歩隔は加齢によって変化しな かったと報告したが、1969年11)に、20-87歳の男性64名について測定し、統計的有意差はみられないが、74歳以上でわずかに増加 傾向を示すと報告している。高見と福井14)は10-80歳の男女128名について、接地瞬間の地面反力の作用点から歩隔を測定し、高 齢群は若年群より男性で50代から、女性で70代から有意に大きな値を示し横方向の安定性を拡大していると述べている。これら の先行研究はいずれも、高齢群の歩隔は若年群と比較して大きい、もしくは同じであると報告しており、本研究の高齢女性におけ る狭い歩隔の結果と異なる。本研究では、先行研究と異なり歩隔を踵で計測したので、もし下肢全体が股関節と足関節を結ぶ軸上 で回外すれば、爪先は外側へ、踵は内側へ移動する。しかし、女性の足向角は高齢群と若年群で差が見られなかった(表1)ので、計測 点の違いによって結果が異なったとは考えにくい。
 足向角(foot angle)についてはMurrayら10,11)が、高齢群男性の方が若年群より大きく、いわゆる“外股歩ぎ”であることを報告 している。本研究の高齢男性も若年群より著しく大きな足向角を示しており、先行研究11)が示す加齢変化と一致する。しかし、女 性の場合は足向角が小さく、高齢群と若年群との間に有意差は見られなかった。この足向角における男女差と高齢女性に見られ た狭い歩隔の原因は不明であり、さらに詳細な検討が必要と思われる。


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