考 察
本研究で測定した高齢群の歩行速度は若年群より有意に遅く、身長で補正した速度は、男性の場合は高齢群が若年群より
有意に遅かったが、女性の場合は両群間に有意差が見られなかった。O'Brienら13)は、21-34歳群と62-72歳群の女性を比較し、
身長当たりの自由歩行速度において高齢群が若年群より有意に遅かったと報告している。Kanekoら7)も、50、60、70、80歳群の女
性を比較し、身長当たりの自由歩行速度は70歳から有意に低い値を示したと報告している。本研究の高齢群女性は、Kanekoら7)
の被験者と比較すると、年齢(平均73.4歳)と身長(平均147.7cm)の割に速い歩行速度(平均1.37m/s)を示していた。
歩幅では高齢群が若年群より有意に小さな値を示し、歩調では両群間に差がみられなかった。Ferrandezら2)、Finleyら3)、Himan
ら5)はいずれも歩幅は高齢群が若年群より小さかったと報告しているが、歩調については、高齢群の方が大きい3)、小さい5)両
群間に差がない2,5)と報告している。これらの先行研究の結果は、本研究と同様に、速度の差が歩調よりも歩幅の差の影響を強
く受けていたことを示している。歩幅は、身長で補正すると両群間で差がなく、高齢群における狭い歩幅が低い身長の影響を受
けていたと考えられる。しかしながら、Winterら15)、高見と福井14)およびKanekoら7)は、歩幅/身長が[高齢群<若年群]で有意差が
みられたという本研究と異なる結果を報告している。身長で補正した歩幅と歩行速度の関係は、高齢一若年群がほぼ同一直線上
に分布している(図6)ことから考えると、歩幅/身長において先行研究と異なる結果を示したのは、本研究の高齢者の歩行速度が
比較的速かったことが原因しているのではないかと思われる。
身長で補正した歩調は、女性の場合は両群間で差がなかったが、男性の場合は高齢群が若年群より有意に小さかった。高齢者
の歩行に関する先行研究で、歩調に対する身長の影響を論じたものは見つからなかった。本研究で行った歩調の補正は、体格の
小さな者は大きな者に比べて体を速く動かしやすいという考えに基づくもので、歩調の差を検討する場合に身長差を考慮する
必要性を示唆したものである。身長差で補正した歩調と歩行速度の関係は、歩幅の場合と同様、高齢群と若年群がほぼ同一直線
上に分布した(図6)。身長差を考慮した歩幅、歩調と歩行速度のこれらの関係は、狭い歩幅や遅い歩調を示す高齢者の歩行が、若年
者が遅い歩行速度で歩いた時の歩行の延長線上にあることを示唆している。この点について、Ferrandezら2)とO'Brienら13)も歩
行速度と歩幅の分析を行って同様の指摘をしている。
最小爪先高については、高齢群が若年群より大きな値を示し、身長で補正するとその差は拡大した。Murrayら11)は、20-87歳の
男性64名について最小爪先高を測定し、統計処理は行っていないが、最小爪先高は20-35歳の者と比較して、67-73歳は2倍、74-80
歳は1.8倍、81-87歳は2.6倍であり、本研究と同様に高齢群の方が大きかったと報告している。著者らは当初、高齢者は体力の低下
によってスイング足の爪先が床に近いところを通過するようになり、そのためにつまずきやすくなると予想していたが、結果は
逆であった。本研究の高齢者にみられた高い爪先高は、つまずきを回避するため11)の高齢者特有の動作ではないかと推察され
る。しかしながら、Winterら15)とKanekoら7)は、最小爪先高に年齢差はみられなかったことを報告しており、さらに詳細な分析が
必要と思われる。
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