日本財団 図書館



 考  察
 1.最高酸素摂取量
 最近の運動生理学分野では、最大酸素摂取量と“特定の負荷漸増法運動プロトコルで得られた酸素摂取量の最高値”である 「最高酸素摂取量」とを厳密に区別するようになっている。これは、大筋群を用いた運動中に心拍出量が最大に達した場合の みに観察され、中心循環の機能の最高値の指標である最大酸素摂取量と、心拍出量が最大に達しないような、小筋群を用いた負 荷漸増運動時の酸素摂取量の最高値とを区別するべきであるという考えに起因するものである。そこで、本研究では,“本研究 で用いた一定の負荷漸増法運動プロトコルにより得られた酸素摂取量の最高値”を「最高酸素摂取量」と定義した。この「最 高酸素摂取量」は、その測定に必ず“運動強度が増加しても酸素摂取量がそれ以上増加しないこと”、すなわち“運動強度に対 して、酸素摂取量のレベリングオフ(leveling off)が観察されること”が、必須な“最大酸素摂取量”とは異なる測定項目であり、本 研究で測定された、最高酸素摂取量の全てが、当該被検者のトータルな循環系の機能の指標である「最大酸素摂取量」では異な る。どちらかというと、最大可能運動強度における酸素摂取量ということになる。本研究において、7割以上の被検者の場合、レベ リングオフが観察されており、本研究で得られた最高酸素摂取量は、被検者の循環系の機能と指標である最大酸素摂取量にかな り近い値であると考えられる。また本研究の測定では、足の痛みなどの呼吸循環系の機能と関係なく被検者が運動を停止した場 合の測定結果は含まれていない。したがって、本研究で測定された「最高酸素摂取量」は、最大酸素摂取量に限りなく近い指標で あると推察される。
 本研究で測定された最高酸素摂取量は水泳トレーニング参加頻度が週平均1.5回以上の被検者で増加した。一方、参加頻度が それ以下の被検者では最高酸素摂取量は増加しなかった。したがって、持久性体力の指標である最高酸素摂取量を増加させる には少なくとも週1.5回以上水泳トレーニングに参加する必要があると考えられる。したがって、水泳トレーニングにより最高 酸素摂取量を増加させるには、「なるべく週2回、トレーニングに参加するように」というのが良いと思われる。我々の先行研究 により血中脂質プロフィールに対しても、水泳トレーニングに週1.5回程度の参加が必要ということが明らかになった1)。最高 酸素摂取量は、従来、持久性体力の指標として確立されたものであるが、最近では、HDLコレステロール値などの健康指標との関 係が高い3)ことから“健康に関連する体力”の1つの指標であることが考えられている7)。したがって、本研究の結果は、日常の 活動が活発な勤労中高年女性でも、その健康・体力の保持・増進という観点から、水泳運動という身体運動により週平均1.5回 以上の参加が必要であるということが明らかになった。
 本研究では、多忙な勤労女性の参加回数をコントロールできなかったので、逆に参加回数で被検者をグループわけして、グル ープ別に最高酸素摂取量の変化を観察した。その結果、水泳トレーニングに対する参加頻度が週平均1回以下では最高酸素摂取 量は有意に増加しなかった。また、本研究で対象とした被検者ではトレーニングに対する参加頻度が週平均2回以上の被検者は、 わずかであったので週1.5回という参加回数で、分析を試みた。その結果、この参加頻度の被検者では有意に最高酸素摂取量が増 加した。したがって、このような環境の被検者の最高酸素摂取量を増加させるには“週2回程度を目標にトレーニングに参加し てください”という指示が適切であると考えられる。また、このような環境および動機づけを行うには、時間的環境の整備と有能 な水泳コーチの育成が必要である。


前ページ    目次へ    次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION