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 考  察
 高齢者の健康・体力の維持増進を図るうえでは、地域に居住する一般的な高齢者を対象とした対策が必要であり、そのために はそのような高齢者集団の特性を十分に反映する対象集団を用いた研究が不可欠となる。その意味で、本研究は地域に居住する 65歳以上の自立高齢者の約8割を対象としており、わが国の農村地域に居住する自立高齢者の特性を解明するうえで大きな意義 を有するものと考えられる。
 高齢者の寝たきりやADLの喪失が、循環器系疾患の既往歴の有無と関連を有していることがこれまでに報告されている5,6,10)。 既往歴などの項目において、生活体力指数と有意な関連が認められたのは男性では「脳卒中」「身体の痛み」および「1年以内の 入院」であり、それぞれの既往歴や経験のある者で生活体力が低い関係が示された。我々は3)人口規模が3万人程度の地域に居住 する地域高齢者を対象に同様な検討を行なった結果、循環器疾患の既往歴を有する男性高齢者で生活体力が低いことを認めた。 したがって、男性の高齢者においては生活体力が脳卒中などの循環器疾患により直接的あるいは間接的に影響を受けることが 推察される。一方、女性においてはこれらの既往歴との間に関連が認められなかったが、同様な結果は前述した我々の研究3)やADL に関する研究1B)においても認められており、循環器疾患の発生に何らかの性差が関与している可能性が推察される。「身体の痛み」 は男女に共通した生活体力の低下要因であり、これまでの報告3)と同様な結果であった。このような痛みを有する部位はほとん どが上・下肢の関節部や腰部であり、そのほとんどは軽度の変形性の膝関節症や脊椎症と推察された。したがって、高齢者におい ては男女ともこれらの運動器系の疾患を予防することが生活体力の維持にとって重要な条件と思われる。男性の「1年以内の入 院」と女性の「臥床の経験」では、生活体力に対する影響が異なるものであった。すなわち、男性では何らかの病気やけがで入院 する事がその後の生活体力の低下につながることが示唆されたが、女性では臥床経験を有することは必ずしも生活体力の低下に つながらず、むしろ高値を示すものであった。しかしながら、これらの結果については直ちに性差として結論づけるよりも、女性で 臥床の経験があると回答した者はわずかに9人であり、参考程度にとどめておくのが妥当と思われる。
 形態や生理機能に関する項目では、女性の胸部径以外には、男女ともいずれの項目においても生活体力との有意な関連は認めら れなかった。これまでの研究では、女性においては肥満度の高い者でADLの低下が大きいことが報告されており7)、我々も前報3)で 女性では肥満度が高い者ほど生活体力が低いことを報告した。本研究では女性のBMIは生活体力との間に有意な関連を認めなか ったものの、両者の間には負の関連傾向(p<0.10)が見られた。このような結果の違いをもたらした原因については不明であるが、対 象集団の特性の違いを反映した可能性も考えられ、今後詳細な検討が必要と思われる。


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