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 血液・尿検査値のうち生活体力指数との間に有意な相関関係が認められた項目は、男性では総コレステロール、HDL−コレス テロール、γ−GTP、およびβ2−マイクログロブリン、女性ではHDL−コレステロールのみであった。高齢者では低コレステロール が死亡率の上昇と関係を有することが報告17)されているが、本研究では低コレステロールを示す者ほど生活体力も低い関係が 認められた。高齢者では加齢に伴い血清コレステロールの低下が見られ、特に農村部の男性高齢者においては低コレステロール を示す者が高率に認められることから疾病予防の観点上大きな問題であるとの指摘がなされている28)。本研究においても、総コ レステロールが160mg/dl以下の低コレステロールを示す男性は全体の37.0%であり、女性の9.7%に比べて高率であった。このよ うな高齢者における低コレステロールは低栄養とも関連していることから20)、運動機能への影響が生じ、その結果として両者の 間に関連が認められた可能性も考えられる。HDL−コレステロールは習慣的な運動の実施により増加することが知られているが 19,27)、本研究では説明変数としてHDL−コレステロールを用いていることから、その意味は総コレステロール同様に栄養状態 を反映しているものとの解釈が妥当と思われる。したがって、本研究で認められた総コレステロールあるいはHDL−コレステロ ールと生活体力との関係は、日常生活における動物性脂肪や動物性蛋白質の摂取などの食事内容が生活体力水準に影響を及ぼ す可能性を示唆しているものと思われる。γ−GTPおよびβ2−マイクログロブリンはそれぞれ肝機能あるいは腎機能の評価指標 であるが、これらの個々の機能水準がどのような介在機構により生活体力の水準に影響を及ぼしているかについては解釈が困難 である。これらの関係については、個々の臓器レベルでの機能水準が反映された結果と考えるよりはむしろ、全体的な臓器レベル での老化の進行程度が個体レベルの生活体力に反映された結果として解釈するほうが妥当と思われる。なお、高齢者の検査値に ついては、種々の要因が絡んでいる可能性が考えられることから、個々の項目の結果のみについて論じるだけでなく、検査結果の 全体的な解釈も必要と思われる。
 以上のように、日常生活を自立して営むための身体的生活機能である生活体力は過去および現在の疾病や障害の有無、栄養状 態や臓器レベルの老化や障害の程度を示す血液性状などの多様な医学的健康指標と関連していることが明らかになった。しか し、これらの指標はいずれも身体的な健康状態に関するものであり、それらの個々の要因が共通した交絡因子による影響やそれ ぞれの指標が相互に影響を及ぼしている可能性も考えられる。したがって、これらの関連指標については生活体力に対する関連 要因としての独立性や交互作用について、今後詳細な検討が必要と思われる。また,本研究は横断的研究であり、示された関連性 は因果関係を示すものでないことから、本論で述べた点については慎重な論議が必要と思われる。一方、本研究の対象集団はある 農村地域に居住する高齢者であるが、極めて偏りの少ない集団であることから、本結果を同様な地域に居住する一般の自立高齢 者に適用することはある程度可能と思われる。

要  約
 農村地域に居住する65歳以上の自立生活を営む全高齢者の77.9%に相当する731名を対象に、身体的生活機能としての生活 体力と種々の医学的健康指標との関係について検討を行った。調査項目は生活体力(起居、歩行、手腕作業、身辺作業の総合動作 時間)、問診、形態・生理機能検査、血液・尿検査、歯科・内科診察である。年齢の影響を調整した生活体力指数を目的変数とし、 各医学的健康指標を説明変数とする解析を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。
 1.生活体力と既往歴などについては、男性では脳卒中、入院、身体の痛みで、女性では身体の痛みでいずれも「有り」の者は 「無し」の者よりも生活体力が有意に低い関係が認められた。
 2.形態・生理機能検査については、男性ではいずれの項目とも有意な関係は認められず、女性ではX線検査による胸部径と の間にのみ有意な正の相関関係が認められた。
 3.血液・尿検査については、男性では総コレステロール、HDL−コレステロールとは正の、γ−GTPおよびβ2−マイクログ ロブリンとは負のそれぞれ有意な相関関係を認めた。女性ではHDL−コレステロールと有意な正の相関関係を認めた。
 以上の結果は、いずれも健康状態が良好と思われる者ほど生活体力が高い関係を示しており、これらの要因は個々に、あるいは それらが相互に関連し合って生活体力との間に有意な関連を示すものと推察される。

 本研究は東京都老人総合研究所の長期プロジェクト研究「中年からの老化予防・総合的長期追跡研究」の一環として行わ れたものである。本研究実施にあたり、多大なご支援を頂きました東駅都老人総合研究所の柴田博先生に心より感謝いたします。 また、本研究をまとめるに際しご協力いただいた東京都老人総合研究所地域保健部門の渡辺修一郎先生、並びに調査に参加され た研究者の方々、関係各方面の方々に深く感謝いたします。


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