青少年期における全力運動時の身体作業能力の発達については、これまでに筋力・筋パワーの発揮水準、あるいは垂直跳や
50m走の成績に基づき検討されてきた。また、最近では、Wingate testが発案されて以来、短時間の全力運動における機械的パワー
を無酸素性パワーの測定指標として、その発達過程を論じた報告19,27,36)がみられるようになった。さらに思春期前あるいは思
春期の初期段階におけるトレーニングの実施が無酸素性パワーの発揮能力に及ぼす影響について、スポーツ選手を対象にした
横断的測定29,33,34,35)、あるいは比較的短期間のトレーニング実験の結果に基づき検討した報告10,12,15)もいくつか存在する。
それら一連の研究結果によれば、性ホルモンの分泌量の影響9,11,14)、およびトレーニングによる解糖系酵素の活性度の変化12,
15)から、思春期初期以前の若年齢者は、成人に比較して無酸素性パワーのトレーニングの可能性が低いと指摘されている。一方、
12歳から18歳までの女子陸上競技短距離走選手および長距離走選手を対象にしたThorlandらの結果34)では、14、15歳前後を境に、
トレーニングとして実施しているスポーツ活動の内容を反映した変化が無酸素性パワーの発揮能力に表れはじめる。しかしながら
、思春期から成人に至る年齢層に関しては、無酸素性パワーのトレーニング研究あるいはスポーツ選手の測定データが不足してお
り、その実態は明らかでない。
また、従来の研究は、テスト中の作業様式として一過性の短時間全力運動を採用しており、休息を間に入れた間欠的全力運動時の
発揮パワーの発達過程について検討した例はみられない。実際のスポーツ活動においては、一過性よりはむしろ高強度の運動を、休
息あるいは低強度の運動を間に挟み、間欠的に実施する場面が多い。それゆえ、実際のスポーツ活動の遂行能力との関連で、全力運動
時の発揮パワーを測定しようとするのであれば、一過1生よりはむしろ間欠的な運動様式によるテストを実施したほうが妥当であ
ろう。さらに、間欠的全力運動中の発揮パワーは、反復回数の少ない作業初期では無酸素性パワーと有意な相関関係にあり、作業回
数が増すにつれ有酸素性パワーとの相関が強まるといわれている38)。このような点を考慮すれば、間欠的全力運動によるパワーテ
ストは、スポーツ活動との合目的性に加え、1回のテスト試行により、無酸素性および有酸素性の両パワーの発揮能力を考慮に入れた
総合的な身体能力の評価が可能になると考えられる。
そこで、本研究では、競技形態として運動強度の変化が激しいサッカーに着目し、それを課外活動として実施している高校生に関
する測定結果から、高校期における定期的な身体活動の実施が間欠的全力運動時の発揮パワーに及ぼす影響について検討するこ
とを目的とした。
研究方法
1.被検者
被検者は,課外活動としてサッカー部に所属する高校生男子12名(年齢:17.0±0.2歳、身長:170.6±1.3cm、体重:59.7±1.1kg、平均値
±標準誤差)および成人男子8名(27.4±1.0歳、171.2±1.8cm、76.8±3.8kg)であった。高校生男子の場合に、全員が中学校1年生時より
学内の課外活動としてサッカーを経験しており、1週間当たり平均4日の頻度で1日に約2時間の練習を実施していた。その練習内容
はゲームおよび技術・戦術面の強化が中心であり、体力トレーニングとしての特別なプログラムは含んでいなかった。一方、成人男
子は、全員が高校・大学時代に競技選手(ボクシング、アメリカンフットボール、ボディビルディング、陸上競技短距離走、空手道、競泳、
柔道、テニスの各競技1名ずつ)としての経験を持ち、測定が実施された時期においても、週2〜3日の頻度で1日約1時間から1時間半に
わたり、各個人の専門種目のトレーニングあるいはウェイトトレーニングおよびランニングを中心とする体力トレーニングを実
施していた。測定に先立ち、被検者には研究の目的、測定の内容および安全性について説明し、測定参加の同意を得た。なお、高校生
に関しては、本人に加え保護者からも測定参加の同意を得た。
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