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 総エネルギー摂取量に占めるたんぱく質、脂質、糖質のそれぞれのエネルギー割合(PFC比)は、食事のバランスを検討 する際の重要な指標である。平成8年度国民栄養調査結果(厚生省)の概要8)によると、日本人の栄養摂取状況は平均する とほぼ適正であるといえるものの、若年層において脂質エネルギー比が適正レベルの20〜25%を越えていることが報告 されており、若い世代の食の欧米化による脂質の過剰摂取の問題が懸念されている。
 中学生期の場合、体の大きさに対して相対的に多くのエネルギー量を必要とすることから、脂質エネルギー比は25〜 30%が望ましい6)。しかし、本調査の対象者の脂質エネルギー比は平均33.2%(26.1〜42.1%)であり、そのうち適正レベルの 上限の30%を超えていたものは30名(76.9%)と、全体の3/4にものぼった。また脂質の摂取は、量だけではなく脂肪酸の摂取 バランスも重要なポイントとなる。栄養所要量6)では飽和脂肪酸(S)、一価不飽和脂肪酸(M)、多価不飽和脂肪酸(P)の摂取バ ランス(SMP比)は1:1.5:1が望ましいとされている。対象者のSMPの脂肪酸摂取量は、それぞれ28.2±6.Omg、32.4±6.7mg, 23.2±4.6mgであり、SMP比は1.0:1.15:0.82となった。過剰摂取という量の問題に加え、飽和脂肪酸の摂取割合が多いという 質の問題も存在することが明らかである。
 この脂質の摂り方と食品群別摂取量との間には、いくつかの興味深い関係がみられている(表6)。脂質エネルギー比は、 油脂類の摂取(r=0.61、p<0.01)だけでなく肉類の摂取(r=0.38、p<0.05)、動蛋比(r=0.42、p<0.01)との間にも有意な正の 相関がみられた一方、穀類エネルギー比との間には有意な負の相関(r=−0.45、p<0.01)が認められている。主食としての 穀類を毎食適量摂取することは、糖質エネルギー比を適正に維持し、脂質エネルギー比の増加を防ぐことにもつながる。 また、動蛋比が高くなると、それに伴い動物性脂肪の摂取割合も高くなる。栄養所要量6)の区分別食品構成表(区分6)で示 されている穀類エネルギー比は約53%、動蛋比は40〜50%である。対象者の穀類エネルギー比が38±6%、動蛋比が58±5% であったことからも、脂質の過剰摂取の背景には、ただ単に高脂肪食品や油脂類を利用した料理の摂取が多いだけでなく 、主食が少なく、肉類を用いた主菜が多過ぎるという、食品や料理選択の偏りがあるものと考えられる。
 食物繊維は、1日20〜25g、あるいは10g/1,000kcalの目標摂取量に対し、対象者の摂取量はその約半分の5.64±0.89(7.58〜 3.56)g/1,000kcalであり、目標摂取量を充足していた対象者は皆無であった。この食物繊維の摂取水準は、豆類(r=O.40、p< 0.05)、緑黄色野菜(r=0.46、p<0.01)およびその他の野菜(r=O.54、p<0.01)との間に有意な正の関係が認められている(表6) 。食物繊維を十分確保するためには、豆類や野菜類などの植物性食品を利用した料理を副菜、副々菜として摂取することを 促す必要があろう。
 カルシウムが相対的に摂取不足になるような偏った食品の摂り方、脂質の過剰摂取、および食物繊維の明らかな摂取不 足といった問題から、肉類の摂取が多く、主食である穀類や豆類、野菜類などの植物性食品の摂取が少ないという食生活の 実態が浮き彫りになった。このような過剰と不足の問題が混在していることが,現代の食生活の問題解決を困難にしてい る一因でもある。また油や肉類に対する嗜好や食品や料理の選択の偏りは、将来の生活習慣病の発症を容易に予想させう るものでもある。将来の健康につながるような望ましい食習慣を形成するためにも、自立期であるこの時期に、積極的に食 教育に取り組む必要があろう。
 食事調査法には、秤量法や24時間思い出し法など、いくつかの手法がある12)が、本調査は対象者の年齢や負担を考慮して 、秤量法ではなく写真を利用した13)食事記録によって栄養摂取状況を検討した。3日間だけという限定された期間の調査 であること、写真を撮るという心理的な影響が内在している可能性があること、といったいくつかの課題は残されている。 しかし、栄養摂取水準と食品の取り方との関連性は、現在の中学生の食生活の問題点を明確に指摘している。対象者の栄養 摂取について総合的に分析し、この時期に必要な食教育の方向性について考究していくことが次の課題となろう。





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