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考  察

 本研究で対象としたサッカー部の通常の練習は、月〜土曜日の30分間の朝練習と水曜日を除く毎日1.5時間の放課後練習、 および日曜日の練習(1.5時間)であった。本研究では、詳細な生活時間調査を実施していないが、週6日の部活動での練習など、 対象者は活動量の多い日常を過ごしていると考えられる。しかし、同じサッカー部に所属しているとはいえ、その練習時間は 24時間のうち約2時間に過ぎず、1日を通した活動量は個人によって異なる。また、中学生期は成長期であることからも体格の 個人差が大きい。そのため本研究では、体格や活動量などの個人の違いを考慮するため体重当たりの摂取量あるいは栄養素 密度を求め、栄養摂取水準を評価した。さらに、部活動によって活動量が増加する場合、エネルギー要求量の増加にみあった栄 養素の確保が必要となる。相対的な栄養摂取の充実度、言い換えればどれだけ栄養素が詰まった充実した食事が摂取できてい るかを評価するためにも、栄養素密度からみた栄摂取水準の検討が必要とされるわけである。
 本研究の対象者の栄養素密度からみた所要量に対する各栄養素の充足率は、カルシウムと鉄が100%に充たなかったとはい え、いずれも95%を超えており、たんぱく質およびビタミン類も充足率を充たしていた(図1)。栄養素密度からみた平均の栄養摂 取水準は、概ね良好であるといえよう。
 一方、エネルギー、たんぱく質、カルシウムの摂取水準を体重当たりの摂取量で検討すると、図2に示す頻度分布となる。当該年 齢の所要量6)をもとに求めた対象者集団に相当する摂取目安は、エネルギー52.1kcal/kg、たんぱく質1.87g/kg、カルシウム18.0mg/kg である。1、2年生の体重当たりの平均エネルギー摂取量は、60.7±10.2kcal/kgであったが、対象者のうち6名(15.4%)が所要量に達 しなかった。この所要量に達しなかった対象者の体格とエネルギー摂取量との間には、摂取エネルギー量が少ない対象者はやせ ている、といった関連はみられない。図2の頻度分布からも明らかなように、成長期では身長は伸びているがまだ体重は増えてい ないといったケースも含まれることから、体重当たりの摂取量は非常に大きな分布を示す。体表面積当たりの摂取量にも換算し てみたが、個人差が大きいことに変わりはなかった。一方、体重当たりのたんぱく質摂取量は2.31±0.41g/kgとなり、所要量に達し ない対象者は3名のみ(7.7%)であった。エネルギーや窒素バランスについて検討するには、栄養摂取や発育発達に関するより長 期にわたる観察が必要である。一時点での摂取水準だけでその過不足を判定するには慎重さが必要とされるが、平均的には少な くとも発育発達を阻害するような栄養不足の問題が存在する可能性は少ないといえよう。栄養所要量は、身体的に健全な発育を 達成し、健康を保持増進し、充実した生活活動を送るために摂取することが望ましい摂取目標量を示したものである。この栄養所 要量と比較して、本研究の対象者の栄養素密度からみた充足率、体重当たりのエネルギーおよび、たんぱく質摂取量といった栄養 摂取水準は、個人差はあるとしても、平均して概ね発育発達を遂げるためには十分な水準であったと評価することができると思 われる。
 カルシウムは、国民栄養調査結果からみた日本人の平均摂取量が所要量の水準に達しておらず、摂取量を増やすことが推奨さ れている栄養素である8)。本研究の対象者の場合、平均摂取量そのものは所要量を充たしていたが、栄養素密度からみた充足率 は100%に達しなかった(図1)。1、2年生の体重当たりの平均カルシウム摂取量は20.3±5.6mg/kgとなり、摂取目安を上回ってはいた ものの個人差が大きく、所要量に達しない生徒が14名(35.9%)いた(図2)。カルシウムの主要な供給源としてまず推奨されるのは 、乳・乳製品であるものの、栄養所要量の区分別食品構成表6)(区分6)によると、乳類からのカルシウム供給率は約38%に過ぎず 、残りのカルシウムは豆類、緑黄色野菜、その他の野菜、魚介類、小魚類から供給されるように設定されている。つまり、乳類以外に も多様な食品からカルシウムを摂取することが重要なポイントになる。調査対象者は、全員が学校給食で毎日1回は牛乳を摂っ ており、食品群別にみた乳類摂取量からも1年生が495g/日、2年生が467g/日と、十分摂取していると思われるのに対し、豆類や野 菜類などの摂取量は少なかった(表3)。所要量には安全量が加味されており、所要量を充足していないからといって必ずしもそ の栄養素が不足していることになるわけではない。しかし、1/3以上の対象者の摂取量が所要量未満であり、その背景に豆類、緑黄 色野菜、その他の野菜、魚介類、小魚類といった多様な食品が摂取できていないといった問題が存在すると考えられることから、 このような適切とは言い難い食品選択が長期にわたって継続された場合の影響を鑑みると、乳類はもとより多様な食品を食べ ることの重要性を強調した食教育が必要であると思われる。



表6 食事記録からみた栄養摂取水準と食品郡別にみた食品の摂り方との関連性




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