このような主介護者や被介護者を取り巻く地域的特徴を反映し、主介護者の9割を超す者が被介護者を在宅で介護するにあたり1人以上の支援を有しており、支援者の大部分は家族や親戚であった。換言すれば、対象地域における家族介護力はまだ保たれており、地縁血縁といったインフォーマルな形での在宅介護支援によりほぼ対応可能な状況であるとも解釈できる。しかし、高齢夫婦や高齢独居者が将来さらに増加することが充分予測できるので、市町村、福祉団体、ボランティア団体、民間企業など地域に適したフォーマルな形での在宅介護支援の提供を今後考えていく必要があると思われる。
もちろん本研究の調査時点においても主介護者の約半数以上が何らかのサービスを利用していた。しかし、デイサービスやショートステイなど自宅以外の別な場所に被介護者を預けるというサービスの利用のし方が多く、被介護者を介護する家族に対する支援や健康管理といったサービスを利用しているものは極めて少なかった。後者は、おそらく家庭内で対応が可能なものあるいは対応すべきことして従来捉えられてきた領域であり、家庭外からこのようなサービスを受けることもできるという考え方そのものが主介護者の中になかったのかもしれない。支援者のない者、支援者がいても当事者たちだけでは問題解決が困難であり疲弊しきっている者にとって、第三者からの支援は在宅介護を継続していくうえでの大きな支えになると思われる。介護者に対する心理的支援や健康管理などよりきめ細かな在宅介護サービスをいかにフォーマルな形で実現していくかが今後の課題である。
主介護者の精神的健康度は介護負担感と有意に相関していた。特に精神的不健康状態として顕著であった項目は、不眠、ストレス、抑うつ、ふしあわせ感であった。主介護者が介護をするにあたり特に負担だと感じる項目は、「被介護者が主介護者に頼り切っている、あるいは主介護者だけが頼りという風に見える」であった。また、精神的に不健康状態であると判断された主介護者は、そうでない者に比べ、痴呆を有する被介護者の介護に常時つききりの者、支援者のない者に有意に多かった。以上のことから、主介護者に集中しがちな介護負担を複数の支援者を得ることにより分散し、かつ支援者からの心理的支援を得ることにより介護による心理的ストレスを軽減することが、主介護者の精神的健康度を良好に保つポイントであると思われる。
以上の結果より、痴呆を有する高齢者を在宅で介護する場合、主介護者の中で精神的不健康状態に陥る可能性のあるリスク・グループとして、?痴呆のため常時介護を要したり専門医療を要する被介護者をもつ主介護者、?支援者のない主介護者が明らかとなった。このグループは、本人自身が介護により心身状態を悪化させるだけにとどまらず、不眠、ストレス、抑うつ、ふしあわせ感が高じ、最悪のシナリオとして、介護放棄や虐待や自殺へと発展する可能性をはらんでいる。ゆえに、このグループに対する介護支援を特に充分行う必要があると考える。
それでは、このようなリスク・グループに対し、どのような介護支援を行うことができるであろうか?大きく分ければ、被介護者をしかるべき所に入院/入所させることと、在宅介護をそのまま継続することの2つであるが、二者択一の選択は、被介護者および主介護者の希望を最優先すべきであろう。
被介護者を施設に入院/入所させる是非については議論のあるところである。入院/入所により痴呆症状が悪化し死亡率が高くなるという報告がある一方、生存率が高くなるという報告もある。最近は、病院や施設ではなく普通の住宅で痴呆を有する者と介護する者がグループで共同生活をするグループ・ホームが行われているところもあり、成果を上げているという報告がある。要は、被介護者を受け入れる受け皿の質が問われているといえよう。
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