被介護者を入院/入所させたことにより在宅で常時介護をする必要のなくなった主介護者は、介護から解放され、果たして負担感が軽減するのであろうか?今回の調査の中で、介護について主介護者に自由に意見を述べてもらったところ、家族が介護をするのは当たり前という意見も聞かれた。被介護者を入院/入所させた者の中には介護を放棄したと思い込み、罪悪感に悩むものもいるかもしれない。特に被介護者の痴呆状態や健康状態が入院/入所後に悪化した場合、主介護者の罪悪感はさらに深まろう。また被介護者が家にいなくなり、主介護者自身が孤独感や孤立感を感じる場合もあろう。ゆえに、被介護者が在宅から在宅外の介護に移った場合であっても、それまで介護を行っていた主介護者に対する特に心理的支援は、その後も継続して行われるべきであると思われる。
在宅介護を継続する場合、特に主介護者に支援者がない場合、前述のように介護は家族がするものという考えから、第三者に支援を求めることに考えの及ばないもの、あるいは第三者に支援を求めることに対し抵抗があるものもいるかもしれない。このような主介護者に対しては、まず、第三者の支援者の存在、提供する介護サービスの内容や種類を理解してもらうことから始めることが大事である。本研究の結果からも明らかなように、特に心理的支援のもつ意味の大きいことを、介護支援提供者も利用者も互いに認識することが重要である。介護支援を得ても負担が荷重になるような場合には、入院/入所というもう一つの選択肢が準備されているということを主介護者に理解してもらうことも忘れてはならない。
超高齢化が進むへき地において、在宅高齢者介護施策は重要課題の一つである。本研究により、痴呆を有する在宅高齢者を介護する主介護者にかかる負担の大きさや精神的健康状態の実態が明らかになった。重症の痴呆を有する者を受け入れる受け皿つくりをすすめながら、主介護者に対する特に心理的支援を強化することが必要である。また、地域に存在する第三者としての支援者の開発を行うとともに、介護者と支援者あるいは保健医療福祉提供者間、介護者間におけるネットワークつくりも重要であると思われる。本調査の中で、介護支援者として家族/親戚の次に挙がっていたのが、市区町村であった。このことは、都会に比べ役場の存在がより身近なものとして地域住民に受け入れられていることを物語っている。天草地域において保健所や市町村が在宅高齢者施策の推進役としてこれからも大いに期待される所以である。痴呆を有する在宅高齢者を介護する者の負担感を軽減し精神的健康状態を良好に保つ根本的な解決策は、痴呆症状の進行をくい止め自立度を高めることである。在宅高齢者施策の充実により、このような根本的な解決の実現にも夢を馳せたいものである。
?.まとめ
1.主介護者の精神的健康度は介護負担感と有意に相関していた。
2.主介護者において、特に精神的不健康状態として顕著であった項目は、不眠、ストレス、
抑うつ、ふしあわせ感であった。
3.主介護者が介護をするにあたり特に負担だと感じることは、「被介護者が主介護者
に頼り切っている、あるいは主介護者だけが頼りという風に見える」という点であった。
4.精神的に不健康状態であると判断された主介護者は、そうでない者に比べ、痴呆
を有する被介護者の介護に常時つききりの者、支援者のない者に有意に多かった。
5.主介護者に対する心理的支援を強化することが今後必要であると考える。
謝辞
本研究は、日本財団補助事業による補助を受けて実施することができました。ここに深く謝意を表します。また、本研究の面接調査にご協力いただいた熊本県天草保健所管内15市町の保健婦の皆さんに感謝いたします。
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