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[?]各種胃疾患における胃粘膜の血液型抗原分子に関する研究


小谷和彦  国保赤碕診療所
下村登規夫  鳥取大学医学部臨床検査医学
村上文代  鳥取大学医学部臨床検査医学
猪川嗣朗  鳥取大学医学部臨床検査医学
中本 周   鳥取県立中央病院検査科
岩本禎彦  自治医科大学法医学・人類遺伝学
梶井英治  自治医科大学法医学・人類遺伝学

? はじめに

 細胞の癌化に伴って、糖蛋白質や糖脂質の糖鎖構造が劇的な変化を示す現象は、近年よく知られるようになった1)。この現象の意味づけは未だ充分ではないが、糖鎖構造を制御する糖転移酵素の発現パターンが臓器や組織ごとに異なっていることや、糖転移酵素の合成に関わる分子機構などが、次々と明らかになってきている2)。われわれは、癌化で変化する糖脂質のうち、組織血液型抗原であるLewis式血液型に注目し、特に胃粘膜疾患との関わりを調査している3)。ヒトLewis式抗原のa(Lea)型、b(Leb)型は、フコース転移酵素2(Se酵素)、3(Le酵素)により合成が規定され、この組み合わせで、表現型として分泌者Le(a-b+)型、非分泌者Le(a+b-)型、分泌・非分泌者のいずれもあり得るLe(a-b-)型に分類されている2)。フコース転移酵素の遺伝子解析から、Se酵素には活性を持つSe遺伝子と不活型のse遺伝子があり、Le酵素には同様に活性型のLe遺伝子と不活型のle遺伝子があり、表現型Le(a-b+)型はSeとLe遺伝子両者を有し、Le(a+b-)型はse遺伝子のホモ結合に、Le(a-b-)型はle遺伝子のホモ結合に対応することが判明した4〜6)。これまで、Lewis式抗原については、本来Lea抗原を表現しないLe(a-b+)型者の胃癌組織に、Lea抗原の異常発現のあることが、免疫組織化学的な手法で観察されてきている7〜10)。今回は、この知見を踏まえて、LeおよびSe酵素遺伝子が正常胃組織と胃癌組織で、どのような発現を示すのかをRNAの定量を主とした分子生物学的手法で検討することとした。また、こうしたLewis式血液型抗原分子の合成酵素遺伝子の検索が新たな分子腫瘍マーカーになり得るか否か、本酵素遺伝子から慢性胃炎―腸上皮化生―胃癌シークエンスを説明し得るかなどについても考察した。

 

 

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