C.PCR法によるPAI-1遺伝子の解析:
表1に示したPCR用設計プライマーを用い、PAI-1遺伝子の全エクソンおよびプロモーター領域をPCR法により増幅し、発端者と健常者との間で増幅物の分子量をアガロースゲル電気泳動法により解析した。その結果、いずれのエクソンおよびプロモーター領域においても発端者のPCR増幅物は正常者と比較し、泳動度に差がみられなかった(図3)。従って、発端者のPAI-1遺伝子の全エクソン領域およびその近接領域に電気泳動上区別し得るような欠失や挿入の可能性がないことが明らかとなった。
D.PAI-1遺伝子の塩基配列:
PAI-1遺伝子の全エクソンおよびプロモーター領域のPCR増幅物をそれぞれpCR2.1プラスミドベクターヘクローニングの後、すべての塩基配列を決定した。
PAI-1遺伝子のプロモーター領域のなかで転写開始点から-675番目のグアニンの1塩基挿入の有無による多形性は、PAI-1遺伝子の転写活性を規定する重要な部位であることが知られている4)。この部位は、転写因子NF-κBの結合部位として推定されており、GACACGTGGGG(G)AGという5G(insアレル)と4G(delアレル)が存在し、4Gアレルホモ接合体は5Gアレルホモ接合体に比べて約20%転写活性が亢進するといわれている。発端者の塩基配列は4G/5Gヘテロ接合体であり、本例においてはPAI-1欠乏の直接的な原因部位とは考えられなかった(図4)。
発端者PAI-1遺伝子エクソン2において、4503番目のグアニンがアデニンに変異した点突然変異が認められた(図5)。この変異によって、PAI-1蛋白のシグナルペプチド内の-7番目のVal(GTC)がIlc(ATC)に置換することが予想された。さらにこの変異を確認するため、発端者(?-2)およびその長女(?-1)のエクソン2領域を非対称PCR法を利用した直接塩基配列決定法により解析した。その結果、PCRクローニング後の塩基配列決定法でみられたものと同一部位にグアニンとアデニンの両方のバンドが認められ、?-2および?-1ともにヘテロ接合体であることが明らかとなった(図6)。PAI-1遺伝子の他のエクソンには有意な変異はみられず、本家系においてこの変異がPAI-1欠損症の病因であるものと考えられた。
?. 考 察
今回対象とした著明な出血傾向を呈する患者およびその家系が遠隔地であるため、血小板などの十分な試料が揃わず現段階における解析はpreliminaryなものであるが、これまでの解析により次のような事が示唆された。
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