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[?]へき地で発見された出血性素因を有する家系に関する研究
     ―PAl-1分泌異常症の遺伝子解析―


窓岩清治  地域社会健康科学研究所 止血血栓
高橋弘憲  宮崎県立延岡病院      内  科
三室 淳   地域社会健康科学研究所 止血血栓
坂田洋一  地域社会健康科学研究所 止血血栓

?. はじめに

 地域医療に従事していると、原因を特定できない症例に遭遇することがあるが、充分な解析を行う機会に恵まれないまま、患者本人および家族の診療を行わざるを得ない。疾患の原因を解明し病態を正確に把握することは、地域医療および臨床医学の発展に寄与するものであり、そのためには地域医療と研究機関の有機的な連携が重要である。
 我々は、自治医科大学卒業医師と密接な協力のもと、宮崎県北部地域在住の先天性の出血性素因を有する家系の解析を行い、その主因がプラスミノゲンアクチベータインヒビター1(Plasminogen activator inhibitor-1;PAI-1)の分泌異常であることを蛋白レベルで明らかにした。さらにPAI-1遺伝子の全エクソンを解析し、欠損症が新しい点突然変異に起因することを見いだしたので、本研究の成果として報告する。
 PAI-1は、分子量約5万の糖蛋白であり、α1-アンチトリプシンやアンチトロンビン?とアミノ酸配列に相同性があり、いわゆるserine protease inhibitor superfamily(SERPIN)に属する。PAI-1は、プラスミノゲンアクチベータを即時的かつ特異的に阻害することにより、線溶系始動を制御する生理的に重要なインヒビターである。PAI-1は敗血症に併発した播種性血管内凝固症候群(DIC)では著増し、血栓を不溶化し多臓器障害を惹起することが知られている。最近では、動脈硬化において血管内膜にPAI-1の発現が増加しており、動脈硬化の進展および血栓症の一因と考えられている1)。循環血液中に存在するPAI-1は、大動脈や心臓、肺などの血管が豊富な組織あるいは脂肪組織に由来する2)。さらに最近、血小板の前駆細胞である骨髄巨核球において、トロンボポエチン刺激により成熟巨核球へ分化するとともにPAI-1の発現が元進ずること、すなわち骨髄巨核球が内因性にPAI-1を産生することを明らかになっている3)

 

 

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