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? 考察
 不眠と便秘における医師の対処および判断の調査対象者に、プライマリ・ケアセッティングで外来診療を行っている医師を任意で選んだ。医師の卒後年数の結果は3年目から20年目と幅があり、卒後年数については大きなバイアスはないと思われる。しかし、初期研修スタイルがほとんどが多科ローテートであることから、内科ローテートやストレート研修した医師がどのような対処および判断をしているかについてはこの研究結果から言及することには限界がある。
 不眠に関する問診項目は、睡眠障害の有無や生活習慣といった内容に加え、その理由や背景といった回答が多かった。便秘に関しても同様に便の性状、便秘の期間、食生活といった内容が多かった。しかし、便秘では理由や背景といった内容はなく、不眠において、その原因に精神的な問題を念頭において、患者の解釈モデル7)を聞き出していることが推測される。不眠の処方において、うつや神経症に関する回答があり、これを裏付けていると考えられる。一方、便秘に関しては、不眠ではほとんど身体所見や検査が行われないのに対して、便の性状や便秘の期間を聞くことにより、何らかの問題があれば、直腸診、大腸ファイバー、便潜血検査を行うと回答した頻度が高い。これらの検査は大腸がんの診断に有用な検査であり、多くの医師が便秘に関しては大腸がんを念頭において診療が行っていると推測される。
 処方に関しては、興味深いことは、不眠および便秘ともに、その処方行為は、約80%の医師で、卒後5年目以内に確立していることである。先輩医師、指導医、教科書、処方経験から、処方行為が形成されていたことも判った。最近、とくに日常診療において、根拠に基づいた医療(Evidence-Based Medicine)の重要性が唱えられている8)。しかし、誰一人も、文献に当たり、治療効果を判定した後に、患者の治療行為を決定していなかった。不眠や便秘に関わらず、他の症状や疾患においても同様な状況が予想される。さらにこれらを明らかにし、適切な卒後臨床研修のプログラムを作成する必要があると考えられる。
 今回の調査において、N-of-1 trialによる患者の治療法選択において、患者および医師から大きな問題の指摘は無かった。患者も結果から、治療法に納得し処方を受けた。これらから、N-of-1 trialは、日常臨床に用いることが出来ると考える。しかし、今回は、症例が1例であることから、今後症例を増やし、さらに、患者および医師の処方行動にどのような影響をもたらすかなど、慢性的な症状に対する治療を決定するために、N-of-1 trialが不可欠な方法なのかどうかを検討していく必要がある。さらに、今後は、不眠や便秘の対処をどのように行ったいるかまたそれがいつ頃形成されたかといったアンケート調査を、本調査の結果をもとに作成し、さらに本調査の結果を検証することをN-of-1 trialの調査ととともに進める予定である。

 

 

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