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 これらの事前の検討をもとにえられた今回の結果では、まず検討1の健常者の総頚動脈を対象にした再現性は、検者間の結果および、同一検者での経時的な測定についても差を認めず、測定法として十分信頼できるものであることが判った。この変動係数をみると10%前後であり、生体を用いた測定法としてはこ良好と考えられた。ただし、注意せねばならないのはこれらの検者は超音波検査について十分な知識・経験があるものであり、初心者特にカラードプラ法についての経験が浅いものでは、ある程度のトレーニングを要すると考えられる。
 次に、健常者を対象に従来の方法で計測された値と今回の計測値が生体においてどの程度正確であるかについて検討を行った。それによると、これまでの総頚動脈は超音波のQMF法を用いて計測されたものが最も理論的に信頼されていたが、今回の計測値は総頚動脈で男性で460〜490ml/min,女性で415〜425ml/minであり、10%から15%程度小さい値であった。この理由として考えられるのは、この計測法が、ファントム、動物実験で約10%低い値を示すことがその理由の一つと考えられたが、装置のカラー表示法も関係ある可能性があり、断定できていない。一方門脈についてのいくつかの報告では11)12)、門脈血流量は今回の測定値男性872±244ml/min、女性12名731±153ml/minと似た値であった。しかし同じ超音波を用いた測定法であっても、今回の測定法の方が、原理的にもまた血管が屈曲している場合であっても計測ができる利点を有している。なお、今回腎動脈について右のみ計測した理由は、左側は消化管ガスにより描出しにくい場合が多いためである。
 下肢動脈の血流量については、健常者の外腸骨動脈で右側385±137ml/min、左側323±103ml/mimであったが、これまでこの部位での計測値の報告がなく比較することはできなかった。ところがこの健常群と比べ合併症を有し症状の進んだ糖尿病群では、右407±21ml/min、左361±15ml/minと健常群よりやや大きい値を示したことが興味深い。この点については既に糖尿病による下肢症状を有するものでも、その血流量は減少していないという報告がされており13)、これを裏付けたデータといえる。なお、糖尿病患者で下肢の血流が増加する理由としては、皮膚および皮下組織での動静脈シャントのためで、血流は増加するが組織に有効血流として流れないといわれている。今回動脈硬化による下肢病変については、時間的制約があり十分なデータが得られなかったが、間歇性跛行を示した症例では健常側の249ml/minにくらべ患側13ml/minであり、健常者の値と比べても著明低下であり、もう1例も健側の361ml/minとくらべ患側223ml/minと低下を示しることを定量的に評価することが可能であった。その他に興味深いのはプロスタグランジン製剤で血流が増加する現象が定量的にえられたことで、この計測は治療の有効性の評価に役立つと考えられた。

 

 

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