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4.女性の妊娠・分娩歴
 表4に妊娠・分娩歴を示す。1回以上の妊娠・分娩の頻度は、応桑地区がそれぞれ10%以上文部省コホートより高かった。これは、調査地域では再生産が円滑に行われていたことを示している。痴呆発症には家族環境も深く関与することが疑われており(3)、ベースライン時点での条件として興味深い。

5.ベースライン調査からみた痴呆発症の危険
 我々は、今回の調査地域で、過去にアポリポ蛋白E(アポE)遺伝子頻度の検討し、アルツハイマー病の危険因子であるとされるアポEのε4遺伝子頻度が80歳以上では0.17とむしろ高率であることを報告した(5)。しかし、80歳以上で痴呆のある人が多いわけではなく、ε4遺伝子の影響を抑制する何らかの環境因子の存在が考えられた。高齢者でも日常身体活動度が高く、飲酒・喫煙率が低いことが好影響を及ぼしているのではないかと推察していたが、今回のベースライン調査結果はこれを支持するものであった。このように、もともとの痴呆症発症の危険が低い地域で、どんな条件で痴呆が発症するのか、またどうずれば予防することができるのかを、今後さらに追跡し明らかにしていく必要がある。今回の調査によりその基盤が整備できたものと考えられる。

6.凝固線溶系因子の動態

 Homocysteineは脳血管障害の危険因子として知られており(7)、先天性のcystathionine synthaseの欠損による高Homocysteine血症では高率に脳血管障害を発症する。中等度の高Homocysteine血症はmethylenetetrahydrofolatereductaseやmethyltetrahydrofolate-homocysteine methyltransferaseなどのHomocysteineの代謝に関わる酵素の活性低下によるものだけでなく、ビタミンB欠乏や腎不全など後天的要因によっても生じ、やはり脳血管障害の危険因子となる。Homocysteineが血管障害を引き起こす機序として内皮傷害によるTMの機能障害が考えられる(33)-(35)が、56歳以下の検討では高Homocysteine血症と血中TM濃度との関連はなかったという報告(6)もあり詳細は明らかでない。今回の60歳以上の群での検討ではHomocysteineとTMとの相関が見出された。HomocysteineとTMの両者が高い人においてTMと同様に内皮細胞傷害の指標とされるPAI-1は必ずしも高くなく内皮細胞傷害のみを反映しているものではないと考えられる。今後、HomocysteineとTMの高い人についてその背景を詳細に調べるとともに経過を追跡する予定である。

 

 

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