2.応桑地区の健康状態と食生活習慣の特性
最近1年間の健康状態では、応桑地区がよく睡眠をとり、よく運動を行い、よく歩いている、という結果であった。文部省コホートには、全般に郡部で老人保健法健診受診率の高い、日本全体と比較してやや健康度の高い市町村が多く含まれている(17)。またこれらのコホート群のうち、一部地域では、よく歩行する者の総死亡率が有意に低いことが分かっている(18),(19)。したがって、今回の結果は応桑地区の住民が、文部省コホート集団よりもより健康的であることを意味し、今後長寿を保ち、総死亡率が低いことが期待される。
また痴呆症との関連では、Friesらは身体活動度が高いことが有病期間を短縮し、また疾病に罹患した場合も痴呆症を含めて病悩期間が短くなるという、compression of morbidity theoryを主張している(20)-(22)。本集団の追跡により、この点も明らかになるものと考えられる。
食生活習慣のうち、動物性蛋白質では応桑地区は文部省コホートに対して牛肉・鶏肉が少なく、豚肉・鮮魚・卵が多かった。また植物性蛋白質では豆腐を週1回以上摂取する者は男女とも90%を越えていた。動物性蛋白質摂取が、循環器疾患の予防因子であることは確立しており(23),(24)、総合的な健康管理の意味では、この地区における総死亡率とともに循環器疾患死亡率の動向にも注意する必要がある。野菜摂取では、緑黄色野菜であるにんじんでも、根菜であるいも類でも応桑が高かった。また山菜やビタミンC供給源としてのミカンでは文部省コホートと大きな差はなかった。これらの食品はがん予防との関連が示唆されており(25)、今後のがん死亡の動向が注目される。つけものは塩分摂取の目安となると考えられるが、週1回以上の摂取者は応桑地区で文部省コホートよりも高かった。食塩摂取と高血圧発症の関連は確立しており、英国食品政策委員会では、1日6g以内に減少させるべきであると提言している(26)。調査地域における高塩食品摂取に関しては直接の証拠はないが、日本の全国値が12g/日程度であることから(27)、今後とも減塩食の普及啓発が望まれる。
3.応桑地区の飲酒・喫煙状況
応桑地区では、飲酒では男女とも文部省コホートより低く、喫煙では男女ともほぼ文部省コホートと同じ水準であった。飲酒率も喫煙率も、加齢とともに低下することが知られており(28)、国民栄養調査では、60歳以上の飲酒率は男で40%程度、女で10%未満、喫煙率は男で50%程度、女で10%未満である。今回の集団では、女の飲酒率がやや高めである他は国民栄養調査の水準より低かった。喫煙は単一の因子としては生命に対する最大の危険であり(29)、肺がんをはじめとして非喫煙者への受動喫煙の危険が確認されている(30)。また痴呆症に関しては、アルツハイマー病で本数と発症に量一反応関係があり1日20本以上の喫煙では相対危険が2.4倍とする報告(31)もあるが、一方喫煙者でアルツハイマー病の発症が遅れるとの報告もあり(32)、定説はない。今後も注意深い追跡が必要である。
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