2.左室収縮能
DM患者の左室収縮機能を検討した報告はいくつかある(5,10,24-29)。Hartigらは(24)、DM患者10名中5名に安静時に左室壁運動異常を認めたと報告している。
Tokgozogluらは(27)、正常対照者と比べ、DM患者では左室収縮機能の指標は低下しており、CTG反復配列の大きさが最も影響を与える因子であると報告している。一方、Melaciniらは(28)、DM患者と正常対照者との間で左室収縮機能に有意差が認められないと報告している。最近、Childらも(29)、DM患者で左室FSとEFを検討し、正常対照者と有意差はなかったと報告している。以上のようにDM患者の左室収縮能については正常対照者と有意差なしとする報告が多いが、低下しているとするものもある。本研究ではDM患者と正常対照者ではFS、EFに有意差はなかった。
3.左室拡張能
以前、Gospavicらは(30)、Mモード心エコー図より、DM患者では左室後壁と中隔の拡張期の弛緩の速度が低下していることを報告した。ごく最近ChiIdらも(25)、Mモード心エコー図にてDM患者の半数で左室後壁の弛緩の遅延を報告している。ChildらはDM患者を左室後壁心内膜拡張最大速度により二群に分け、この速度が小さい群はDT、IVRTがより長く、E/A比が小さいことを示した。Fragolaらは(31)、心不全症状のない患者を対象として検討し、DM患者ではDTが有意に延長していることを報告している。しかし、To?ozogluら(27)およびMelaciniら(28)は、DM患者で拡張障害はないと報告している。本研究では、DM患者ではDTとIVRTは有意に長かった。一方、E/A比はDM患者と正常対照では有意差はなかった。
本研究でDM患者が拡張障害を示したのは二つの機構が推察される。一つは骨格筋のミオトニアと同様に、イオンチャネルの異常で心筋も収縮後の弛緩の遅延が起こることである。もう一つは原病による心筋の変性脱落、間質の線維化が進行したことにより心筋のコンプライアンスの低下が起こることである。DMの剖検心筋所見では心筋細胞の大小不同・脱落、間質の線維化、そして脂肪浸潤が認められると報告されている(32,33)。このような心筋では拡張能は低下する可能性がある。
本研究ではDM患者の拡張能のパラメーター(E,A,DTそしてIVRT)はCTG反復配列の大きさと有意な相関はなかったが、年齢・有症候期間とは相関があった。また重回帰分析ではEとAは年齢により、DTとIVRTは有症候期間により最もよく予測された。しかし多変量解析(ロジスティック回帰分析)では有意に影響を与える独立した指標はなかった。すなわち古典型DM患者では、拡張障害は存在するが、CTG反復配列の伸長の大きさは拡張障害を予測する因子とはならなかった。
一般に、拡張障害の進行とともにEは減高、Aは増高する(34-36)。しかし本研究ではDM患者ではEもAも正常対照と比較し有意に小さかった。DM患者のEとAの双方の減高は左室拡張能の低下に加え、左房の収縮能の低下によるものかもしれない。
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