日本財団 図書館


 食事に関しては,調理人(2人の女性が交代で作る)が朝の9時に病室を訪れて何が食べたいかを患者さんに尋ねてから買い物に行き,昼の食事を調理するとのこと,きめの細かさに感心した。
 デイジーという猫が住み着いていて,24時間いるセラピストだとの説明があった。病人と健康な人との区別をせずに,猫の好きな人のところへ行くし,人と話し始めるきっかけ作りもしてくれる。
 礼拝堂には亡くなった方の名前と命日を記入したカードがあり,1年に一度開館記念日に泉の周りにすべてのカードを並べ,灯りをともして歌い,食事をするとのことである。また,1ページが1日になっている本があって,今までに看取った500人の方々のお名前がそれぞれの命日のページに書かれていた。遺体安置所にはブルーのステンドグラスがはめこまれている。ブルーは誕生を意味し,真ん中あたりに苦しみ哀しみが象徴されている。
 ボランティアは150人で,うち100人が患者さんのことに関わっている。1年間の研修が義務づけられていて,それを終了した時点で,どのようなボランティアをしたいかを尋ねて活動分野を決める。活動は1週間に一度4時間で,月に1回スタッフと一緒のミーティングを持ち,月に1回スーパービジョンを受けるというシステムであった。

 

3.ゲマインシャフト・クランケンハウス・ヘルデッケ

 1969年に設立されたシュタイナーの人智学に基づく治療を行っている484床の病院である(平均在院日数11日)。
 22年間この病院で働いている生化学者のクリストフさんが病院の案内をして下さった。
 患者さんのための専用の大きな図書館があった。シュタイナーはテレビを見ることを禁止し,本をたくさん読むことを勧めているからである。
 病室は廊下からすぐにあるのではなく,廊下と病室間にちょっとした空間があって病室のドアがある。廊下は真っ直ぐでなく,わざと凹凸させてあり,安心感を覚えるようにされている。壁には絵がたくさん飾られていた。色彩療法は行われていないか,色彩は大切にされている。
 全体に消毒はせず,ただきれいに拭くだけ,食事は有機野菜を用いており,パンは精麦するところがら病院内でやっている。また,薬には副作用があるので,自然治癒力を増す各種の療法も加えて,病人が元に戻るようにしているとのことであった。これはシュタイナーの思想に基づいて運営されている施設の特徴でもある。
 ボランティアについては,国で認められた介護の学校で3年間勉強した人が介護をするので,ボランティアは少ないとのこと。また,ドイツには徴兵制度があるが,若い人が徴兵を避けるには,このような所で1年間奉仕をすることが義務づけられている。また,働く人の権利が強いため,ドイツではボランティアの数がアメリカやイギリスのように多くはないということであった。

 

4.ホスピス・イム・パーク

 1996年に創設された13床のホスピスで,ボランティアは8人である(平均在院日数3週間)。
 創設者のシュミットさん,館長のビニットラーさん,ボランティアコーディネーターのメルクさんなど,日曜日にもかかわらずスタッフ5人で私たちを歓迎して下さった。
 シュミットさんは長い間病院や在宅で死にゆく患者さんのケアをしていたが,1994年にロンドンのセント・クリストファーズ・ホスピスを見学し,同じようなものを作ろうと思い,シュミットさん個人の財産を使ってこのホスピスを作られた。
 入院された患者さんには,どのような死を迎えたいかをまず尋ね,患者さんと家族のどちらの希望も叶えられるように努力するということであった。
 朝食はナースが作り,昼と夜の食事はコックがメニューの中から患者さんが選んだものを作る。食事のとれない患者さんには希望により輸液をする。

 

前ページ    目次へ    次ページ






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION