新館と旧館の中間部は大きなガラス張りのサンルームが作られており,冬はここにベッドを移動する。
見学のために空いている病室に入ったが,ベッドしかなくて,とても殺風景であった。しかしそれは患者さんが自宅となるべく同じように過ごせるように壁には自分の好きな絵を飾ることが許されているし,家具など患者さんの好みの物を入れられるためだとのことであった。
ナースステーションにナースがいることはほとんどないとのこと。それはいつも患者さんの所にいるからで,ナース記録などに時間を費やすのは不要と考えているということであった。
専属のセラピストはいないので,患者さんが希望する場合はルーカス・クリニックなどから来てもらうなどして対処しており,費用は自費とのことである。ホスピスから100?以内であれば在宅ケアもしているが,その際,看護婦はモルヒネの処方や注射もできるとのことであった。
患者さんが亡くなられたあと3日間はホスピスにいることができる(15時間後までは病室,あとは霊安室)。死後の処置はお別れがすんでから行われる。家族には死についての説明がなされ,お葬式はこの施設のチャペルで行われる。チャペルでは月に1回,その間に亡くなられた方の礼拝を行っている。
遺族のケアはそれぞれ3週間後,3ヵ月後に手紙や電話で行われ,それはどの行事も経験する13ヵ月後まで続く。遺族がお茶の時間にみえることもある。「こうした暖かい雰囲気があることが病院との大きな差ではないでしょうか」とシュミットさんは話された。
入院費を払える人は1日につき280フラン払うが,払えない人は話し合いに応じるシステムになっている。資金は健保より1日1人38フラン(5%),財団法人の基金,寄付,あとは個人のお金である。
ボランティアは牧師と心理学者が養成しており,仕事の内容は,介護補助,本を読む,ピアノを弾く,散歩につき合うなどであり,患者さんの自宅には行かない。月に一度,心理学者によるスーパーバイズがなされる。スイスは経済的にも物質的にも恵まれていて専門家を雇えるのでボランティアは少ないとのことである。
ビュットラーさんは「スイスは患者に対してドクターとナースの多い国です。どこでもよい医療が受けられますので,できるだけ長く家族と一緒に生活ができるように援助しています。家庭でも十分にホームケアができます。家族の問題などがあってホスピスに入った場合は,家庭での雰囲気を壊さないように努めます」と話された。ホスピスの理念は下記の通りである。
1.末期の患者と家族が中心
2.プロのケアとナースによってなされる
3.不快症状のコントロール
4.命の質を大切に,最後まで精一杯生きさせる
5.患者が男性でも女性でも,自分で意志決定をする
6.患者の看護は友人,家族が一緒にケアに当たる
7.残された人たちへの精神的ケア
スイスにある公的に認められたホスピスは4カ所で,ジュネーブ,ベルン,バーゼル,アーレンにある。他は病院のPCU,在宅ホスピスケアである。
5.ルーカス・クリニック
次に,シュタイナーの人智学に基づいて建てられた42床のがん専門病院〔医師7人)を訪れた。
ブエスさんから音楽療法の話を伺った。対象はがん患者で,手術を化学療法のあとに,気分転換などに定期的に週3回,あるいは呼吸困難などの緊急時に1対1で行う。詳しくは先述したので略する。
音楽療法の話のあと病院内の見学に移った。特色は下記のようであった。
?病室ごとに壁の色が違っている。ピンク,グリーンなど淡い色が用いられている。
?オイリュトミーの部屋があり,週一度1回45分間行われる。
?オイルや植物によるマッサージをナースがやる。
?毎日午後,肝臓を温める。
?外来のイスカドール(やどり木)点滴用の部屋があり,ベッドが3つある。
?霊安室に遺体は3日間安置される。
6.ゲーテアヌム
ここはシュタイナーの記念館である。人文科学系の自由単科大学であり,また一般的人智学会の本拠地でもある。演劇,オイリュトミー,コンサートなどに使われる立派な劇場が作られつつある。
なぜこの建物にゲーテの名前を冠しているかというと,数学,物理,化学を学んだシュタイナーは,自然科学者としてのゲーテに傾倒したからとのことであった。
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