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4.ルーカス・クリニックの音楽療法

 ブエスさんから,ここでの音楽療法について説明を受けた。ブエスさんの対象はがん患者である。手術や化学療法のあとに,気分転換などに定期的に週3回,あるいは呼吸困難などの緊急時は1対1で行われる。

意識がはっきりしていて話がわかり話ができるか,能動的に音楽療法ができるか,音楽を通して意識を呼び起こすことができるということと併せて,患者の認識力,痛み,呼吸困難といった患者さんの状態,情報を知るところから始めている。

意識不明の患者さんの場合は,音楽を通したときの反応に耳をそばだてて知ることが必要である。音楽療法を監督するのはドクターである。セラピストの心にざわめきがあると集中することができず,患者さんにそれが伝わってしまうので,心の中を整理してから患者さんと対することが大切とのこと。死にゆく 患者さんは独特な感性を持っていて,そうした方々の死にゆく過程に対して尊敬の念を持っていると話された。

生の演奏だけで,再生音は使わない。弦楽器ライアーは死にゆく患者さんに適している。弦の柔らかい感じ,柔らかくて優しい音,音域も広いといった点がその理由で,奏でるとその人の内面が相手にわかるのがライアーである。ライアーはゲルトナー氏によって1925年に作られた。彼は繊細な子にはピアノの音が固いことに気づき,その後ピアノから機械的な部分を取っていく夢を見た。それとギリシアの竪琴からスケッチして5本の弦のライアーができあがったといわれる。
 急性呼吸困難の患者さんに対しては,初めは患者さんの速い呼吸に合わせてテンポを速くして,それから次第にゆっくりにしていく。メロディーがなく,奏でている人の存在がなくなり,患者さんがその中に溶け込んでいくことで自分の中で調整していくような挑発性のある曲を即興で作る。「死の先に道があるということを音楽を通して訴えるのです」とブエスさんは語り,実際の即興もして下さった。

 以上,ドイツとスイス各2カ所ずつ4カ所の音楽療法について述べた。
 人智学的音楽療法に比べて,ノードフ・ロビンズ音楽療法はかなり能動的だが,どちらも共通していることは,会話をまったくせずに,生の音楽だけで進めていくこと,言い換えると, “純粋なノンバーバル・コミュニケーションによって心身を癒していくのが音楽療法である"ということである。このことで思い出すのはガストン(1901〜1970)の言葉である。アメリカの音楽療法の効用を最初に述べたガストンは「人の心と心を通い合わせることが音楽と同じようにもし言葉でもたやすくできたなら,音楽はなかったであろうし,また音楽を生む必要性もなかったであろう」と語っている。
 今回のツアーに参加して“音楽のちからの偉大さに改めて驚くとともに,“現代の医学では対応しきれない心の部分に対して,音楽を用いて治療を補うこと”への限りない可能性を感じた。
 日本では音楽療法に関する認識がまだ十分に行き渡っていないのが現状である。今後,多くの医療者によって音楽療法が正しく理解され,それによって救われる患者さんが増えることを願ってやまない。
 今回出会いのあった音楽療法士は,どの方もとても豊かな感性の持ち主であった。そういう彼女たちを見て“心の交流の技である音楽療法の仕事は,知識や技術だけでできるものではない"ことを強く感じた。

報告:鈴木玲子

 

?.ホスピスと医療施設

1.ラティーゲン市ホスピス活動協会

 初日は,ラティーゲン市にある古いお城の騎士の部屋でラティーゲン市ホスピス活動協会のホリング女史とレッチャート牧師のお話をうかがった。そこは地階で,小さな窓からわずかな光が入るだけの暗くて,ひんやりした部屋であった。何本ものロウソクを灯した薄暗い中で説明が始まった。
 タイトルは「ノートライン・ヴェストファーレン州における組織活動並びにボランティア看護人の養成等について説明」というものであった。

 

表 ボランティアの養成プログラム(1998)

ベーシックコース:
 1.患者との出会いとお互いに深く知り合うにあたって
 2.人生を歩んだ道とその成果
 3.健康でいること/病気になること
 4.臨終に入ること
 5.永眠すること
 6.別れと悲しみ
 7.恐れと希望
 8.共に歩むことと助けの手をさしのべること
 9.ホスピス
10.評価

上級セミナー:
 1.癌―その肉体的または社会的影響
 2.臨終にある患者とボランティアとして共に歩むこととは
  ホスピスの付添人としての権利と義務
 3.現実を認識することとは
 4.痛み
 5.近くにいること/距離をおくこと
 6.会話を進めていくこと
 7.遺族との会話
 8.葬儀
 9.信仰を持って共に歩む
10.評価

 

 

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