2 悲嘆へのケア
愛する人を失った悲しみの心身への反応は,死別後早期に出現する場合もあれば遅れて出る場合もある。短期間で消失するものもあれば,長期に継続するものもある。また程度も軽いものから重度のものまで悲嘆反応は非常に個人差がある。いずれにせよ,死別後には病気にかかりやすく,受診する人が増え,喫煙や飲酒の量が増えたり,うつ状態になる割合も高いなどの報告があり,遺族へのケアの必要性がわかる。具体的にはどのように行われているのか,セント・クリストファーズ・ホスピスの実際を紹介された。
まず,残される者に死別後問題の発生する可能性があるか否か,まずそのリスクをアセスメントするところから始まる。例えば,予測された死か突然死か,自殺など社会的に問題となる死かどうかなど,どのような死であったのか。亡くなった人との関係,残された人自身が周囲から支援されていると感じられるか,死亡の前に悲しむ時間を持てたか,経済的問題など現実的な問題の有無,過去の体験,慢性の病気やうつ病などの既往歴の有無等外在宅ケアの経過の中で,ホスピスで亡くなる場合は死亡の数週間前からの様子,そして死亡時や遺体と対面した時の様子などから看護婦が評価をし,死別後のサービスの必要の有無をチェックする。
死別後早い時期に残された者と面接をし,亡くなったという事実を確認し,疑問に答えたり,情報を提供し,感情を分ち合う時間を持つ。悲嘆についてのリーフレットを渡すことも有効である。死別後のサービスとしては,追悼会の開催,カードの送付,ホスピスでの行事に招くなどのほかに,個人やグループを対象としたカウンセリングも実施している。カウンセリングは専門家であるソーシャルワーカーが中心となって実施しているが,特別な訓練を受けたボランティアが参加し,多くの方々にサービスが提供できる体制となっている。ボランティア育成のためのプログラムが詳しく紹介されたが,ホスピスのスタッフになるより遺族ケアのサービスに参与するボランティアになるほうが難しいといわれるほどのトレーニングプログラムで,遺族ケアの充実がうかがえる。
3.子供と悲嘆
幼くして愛する人,特に親を亡くした子供の悲嘆へのアプローチも重要な課題である。大人は子供を守ってあげたい。悪いニュースは伝えないでおこうと思いがちであるが,真実を伝えないで対応しようとするほうが,子供を孤立させ,子供は一人で恐怖心に対応しなければいけなくなる。子供はそれぞれの年齢に応じて死を理解することができる。子供にわかりやすい,シンプルで明確な真実に基づいた説明が必要である。子供が聞けないでいることも多いので,どんなことを疑問に思っているか問いかけていくことも必要である。また,葬儀など死に関する儀式に参加させることも重要である。親を亡くしたという意味は,成長とともに変化していくものであり,時間の経過の中で支援の方法も異なっていくであろう。
こうした支援は,専門家が直接する場合もあるが,親が子供に対応できるよう援助することが専門家の役割となる。残された親が親として機能できるよう援助することでもある。子供は悲しみをうまく言葉で表現できず,いたずらをするようになったり,おねしょが始まったり,授業に集中できず成績が落ちるなど,行動に変化がみられることがある。そんな時,残された親は自分の対応が悪いのではと悩むことがある。子供の行動に変化が生じる可能性を伝えておくこと,実際にそうした変化がみられた時には,子供が自分の感情を表現しているのだということをアドバイスする。また,親が子供に対応していくためには,親自身が自分の悲しみの感情を表現できることが重要であり,そのプロセスを支援することも専門家の役割となる。また,親が子供と一緒に読めるような本や,自分の体験を物語れるようなワークブックなどを提案することも役立つ。子供への対応は親だけでしなければと思うのではなく,親戚の人や学校の教師,教会の牧師などの力を借りることの提案もする。
先生は子供の悲嘆の意味と対応について詳しく説明された後,いずれにせよ,専門家は親に2〜3のアイディアを提供するだけかもしれないが,それによって親の子供への対応が変化したり,子供に何か与えられるなら,その子供が成長を遂げる上での大きな感情的な支援になるであろうと結ばれた。
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