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しかし,ここでテストを停止した理由はそれだけではなく,他にも大きな理由がある。まず,脈の変化をみてみると,それは正常の範囲に入っているが,血圧の反応は明らかに異常で,これは非常によくない徴候と考えられ,心臓のポンプ機能の不全を表している。このような血圧上昇不全にもかかわらず運動を続けると,テスト終了後に急死につながるような危険を生じ,したがって,運動中の血圧を測ることは非常に大切なことで,このような血圧反応の不全を示すひとは,2年以内に急死する率がきわめて高いといわれている。
 運動中の異常な血圧上昇がそれ自体予後的にどのような意味をもつかは不明である。運動中の血圧上昇が異常に大きいものは,現在,血圧がそれほど高くなくても,将来,異常に高くなる可能性が大きいとする考えもあるが,まだ確かな診断基準とはなっていない。
 これまで知られているところでは収縮期圧で200?Hgを超えるものでは明らかな左室心筋重量の増大がみられ,さらにおよそ5年の経過で運動時の最大収縮期圧が200?Hgを超えるようになると,心筋重量の増大がみられることから,少なくとも左室肥大の予測には重要な意味をもつものと考えられる。
 その他重要なことは,テストによって得られる運動中の血圧はあくまでも実験室内の一定の環境内でのものであり,日常の労作やスポーツでは外的環境条件の変化と,それに伴う情緒や情動の変化の影響が大きく,同じ負荷量であっても予想できない過剰な心血管反応を起こしうることを知っておく必要がある。たとえば,消防士をトレッドミルでテストして,心拍や血圧の反応の大きさを測定し,また同時に心電図の変化に異常のないことをみておいても,火災の場合の消火活動に従事しているときには,それをはるかに上回る心拍数や血圧を示し,なかには危険な心電図上の異常を示していることもあるので,運動負荷試験の成績の意味どりにも限界がある。

 

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