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仰臥位で下半身に陰圧を加えると,立位のときと同じ循環反応を生じ,これを繰り返し行っていると,起立性調節障害が起こりにくくなることから,このような減圧スーツを治療の目的で使用することもある。

3.調圧機能の異常と血圧の動揺

 a)調圧機能の異常はどのようにして生じるか
 以上述べてきた調圧機能の低下が加齢とともに,また血圧の上昇に伴って生じることはよく知られており,従ってこれらの状態では血圧の変動幅が大きくなる。調圧機能の低下がどのようにして生じるか,あるいはそのことが高血圧の発症の原因であるか,結果であるかは依然不明であるが,反射経路のいずれの障害によっても調圧機能の異常が生じうることは多くの動物実験や,人間の種々の病態について知られている。
 大動脈弓や頸動脈洞の血管の動脈硬化性の変化によって,そこに分布する圧受容体やそれに関連した知覚神経の変性や破壊像がみられたり,また高血圧動物では動脈壁のNaや水分の含量が多く,血管壁が伸展しにくくなっているなど,高血圧や動脈硬化の進行によって圧受容器のレベルで生じる異常が調圧機能を低下させることは十分考えられる。これら反射弓の求心路のみでなく,脊髄などの遠心路に障害が生じるときにも血圧調節に異常が生じることは,脊髄の外傷や腫瘍などの患者にみられる急激な高血圧発症と著しい血圧動揺について知られている。
 しかし,先に述べた種々の機能検査で得られる情報は,反射弓全体としての機能を調べるものであって,これらいずれの部位に障害が存在するかは診断できない。とくに,延髄,橋,視床下部など上位中枢神経の機能障害が,血圧調節にどのように影響するかはこれまであまり知られていなかったし,これらの機能異常を人間で検査することはほとんど不可能である。しかし,およそ30年くらい前からこのような問題についての研究が進められ,近年では血圧の調節異常の発現について新しい見解が示されつつある。

 

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