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自分でもいろいろ問題を抱えているのに,さらに問題を抱え込むのではということで,かなり躊躇していました。ということで非常にむずかしいケースでした。
 次にひろしさんのケースです。
 本人は病状を正確に知らされてなかったのです。誰もその家族とじっくり状況を話し合ってはいなかった。病院からホスピスに回された情報も不完全なものでした。子供たちはほとんど見舞いにも行っていなかった。怖くて行けなかった。奥さんはうつ病で自殺のおそれもあった。アルコール依存症でしたが,かなり状況をマネージしていました。しかしお互いがお互いを保護し合って,過保護の状態でみんな状況を察しながらも口に出せなかったのです。
 最初にひろしさんと会うときには奥さんも一緒に会うのでしょうか。英国でしたら夫婦は一単位で,一緒に会うというのが常識ですが,日本では必ずしもそうでないのかもしれません。
 私たちがしたのは,まず奥さんのよう子さんに会ってもらったのです。それから子供たち2人に会って,3回目には親子4人で一緒に会った。ひろしさんにすれば,何のための薬かという説明をされていなかったので,きちんと薬は飲んでいなかった。何をやっても気持ちは悪いということで自暴自棄になっていました。最後には家族の仲直りというか,非常にしっくりといきました。家に帰ることができて,嘔吐もきちんと管理されて家で亡くなりました。ひろしさんには兄弟が2人いましたが,その兄弟には会いませんでした。その状況に怒りを感じていました。兄弟の存在を確かめて話し合っていたら状況が変わっていたかもしれない。全部うまくいくというわけにはやはりいきませんよね。だから自分をそう責めてもしかたがないとも思います。病人のいない普通の家族でもそういうことはありがちなことですから。

 

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