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それゆえに、悩み、答えの出せぬ自分に情けない思いや、患者さんへの申し訳ない思いが常にあったように振り返ります。
 臨床倫理の諸原則として、清水哲郎先生は、?患者によいことをする?患者に害を与えない?患者の自立を尊重する?正義?真実を語る、などを挙げて説明されました。これは、私自身の中で整理しやすく、納得し理解できるものでした。予後を含めた告知の問題では、患者さんの自己決定を支える、ということを考えるとき、真実を語る、という原則からもとても重要な問題になってくると思われます。
 インフォームド・コンセントの意味である“お互いに情報を得て、合意を得る”ということは、患者さんの意思決定を尊重することにつながり、それはQOLを高めることにつながっていくのだということを教えられました。これらのことが踏まえられ、今の時点での患者さんのQOLができるだけ高められるように、患者 家族とともに考え、援助していければと思います。
 私の今後の課題としては、倫理的問題にぶつかったとき、私自身の到達した結論を、私自身がどのような価値観で判断していったのか、そのプロセスを根拠を持ってひとつの意見としてチームへ伝えられる、ということがあります。そして個々の意見を出し合い、チームで悩み、今の患者さんにとっての最善を考え、専門性を持って、誠実に対処していくことを目指したいと思います。
 また、洞察力や感覚的なことへの感性、人間関係へのセンスもとても大切な気がしています。今までの私自身の行動や思考パターンを再度振り返り、私自身の価値観を見つめ直して、確認しておく必要も感じました。

 

精神的、霊的ケアの実際について

 精神症状については、精神腫瘍学の講義がとてもよい学びになりました。日頃の実践で戸惑うことに、プロセスとして現れるうつ反応(悲嘆)と、病的なうつの区別の困難さとアセスメントの仕方についてがあります。知識を得、実践を振り返ってみて、患者さんの訴えを、十分に裏づけを持って、アセスメントできていなかったことに気づかされます。また、痛みや嘔気などの身体症状と同じように、マネジメントしていくことの必要性を強く感じました。当たり前なのですが、やはり何よりも“患者に聴く”ということの大切さを再認識することもできたと思います。そして、その受け取り方、感じ取る能力(裏づけされた)がとても重要であると考えます。
 精神的援助については、終末期患者の心理過程の特徴と援助について学び、理論づけて考える方法を実際に知識として得ただけてなく、自分自身の思考力として身につけることができたと思います。患者さんの反応は一瞬一瞬であり、常に変化しています。その時々において、裏づけされた観察とアセスメントができ、ケアへつなげられるよう、実践へ向けて学びを深めたいと思っています。
 スピリチュアルケアについての学びは、私の死生観を含め、自分自身への問いかけとして考えるよい機会だったと思います。「早く終わりにしたい」とか、「どうして私がこんなことに」、「これからどうなるの」などと、痛み苦しんでいる患者さんは、言葉にはされなくてもおそらく誰もが、大なり小なり、心の奥で叫んでおられるものなのではないかと思われます。私自身の“生きる意味”を考えるとき、今の私の中の答えは、“人と人とのつながり”そのものてあると言えるような気がしています。この自分なりの意味が、私自身の価値観として見いだせたことは、今回の講義とこれまての実践(人生も含めて)の振り返りによって、明らかにできたものてあろうと思います。スピリチュアルケアは、人間としてこの世に生を持ったもの同士の、最も大切な部分での関わりになるのではないかと考えます。日頃、[患者さんに教えられる」と思う瞬間は、ともにスピリットに触れ合い、ともに成長できたことの実感だったのだ、と改めて思います。今後の実践において、患者さんとスピリットの部分でつながりが持て、癒し(安らぎ)が与えられる存在でいられるよう、人間性での経験を積み重ね、学んでいけたらと思います。

 

 

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