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(3)疼痛治療の目標

 治療の目標は疼痛を除去または軽減し、障害を受けている日常生活を可能な限り改善することにある。初期の目標は十分な睡眠がとれる程度の鎮痛である。睡眠障害がなくなれば安静時から休動時への鎮痛のレベルを上げていく治療法の基本は、WHOがん疼痛治療法に基づいて行う。
 ?経口投与経口投与が困難な場合にのみ直腸座薬投与にする。
 ?治療薬の段階的選択:増量しても十分な鎮痛が得られない場合には次の段階に進む。
 ?一定時間ごとの投与:薬剤の有効時間に従って効果がなくなる前に次の投薬を定期的に行う(疼痛が出現するたびに投与するのは誤り)。非ステロイド性鎮痛薬、麻薬製剤の一部には、長時間作用が持続する剤型かあるので注意が必要。
 ?十分な増量:少量より開始し(特に麻薬の場合)効果を見ながら増量していく。効果が不十分なまま同じ投与量を数日以上維持する意味はない。
 ?副作用の予防 鎮痛薬の副作用は予防が原則となる。非ステロイド性鎮痛薬では消化性潰瘍、麻薬系の製剤では抗うつ病の治療を同時に開始する。特に麻薬で生じる副作用は患者に不安を与えるばかりでなく、体力を消耗させるので十分な予防が必要である。
 患者の痛みが体の1カ所であっても、その原因か単純に一つであるとは限らない。複数の原因が存在すれば複数の痛みが重なって存在し、1種類の鎮痛薬で一網打尽とはいかないこともある。このような場合、それぞれの痛みに効果的な薬剤を加えていく必要がある。

 

(4)全身倦怠感(がん悪液質も含む)

 がんの進行とともに出現する全身倦怠感は主観的な感覚である。入院患者の98%は全身倦怠感の身体的要因として、がん悪液質とその症状が関連して二次的症状による苦痛であり、精神的要因として、うつ状態に相当する精神的負担と考えられている。現在、全身倦怠感の機序はまだ明確になっていないが、患者のQOLを低下させる症状であることは明確である。緩和ケアの目的は死が訪れるまで患者が積極的に生きていけるよう支援する体制をとることであり、全身倦怠感に対するステロイドの有効性が効果的と報告されている。ステロイドの使用は、患者のQOLを高める積極的な治療、すなわち思考のQOLを低下させる要因に対する治療であると捉える。

 

(5)薬理作用

 副腎皮質ステロイドホルモンには糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドの2種類があるが、鉱質コルチコイドはNaイオン貯留作用があるため、緩和ケアではほとんどの場合、糖質コルチコイド(以下ステロイドと略す)が使用される。がん悪液質の発現機序として、がん悪液質誘導サイトカ

インは中枢神経系に作用して摂食減少、発熱、低血圧、無気力状態などの症状を起こし、また糖質、タンパク質、脂質の異化の亢進状態を招いて悪液質に至る。ステロイドを投与することは炎症反応、免疫反応の抑制、さらに悪液質誘導サイトカインの産生抑制により、がん悪液質の代謝異常が是正され、体重減少、食欲不振、無気力、味覚異常、貧血などの悪液質症状の軽減、改善がみられる。

 

WHOがん疼痛治療ラダー (鎮痛薬の使用順序を段階的に示したものである)

 

 

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