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家族ケアは情報集めから始まることを改めて教えられた。朝の訪室時の何気ない日常会話の一言から昨日の家族の行動や気持ちをキャッチできる。個々の看護婦の持ち味を活かしながら雑談をしたり、ケアをしながら得た情報は実に豊かな情報が集められるのだということも学ぶことができた。たとえ患者の病状が進行し厳しい状況であっても、家族がチームのメンバーに見守られているという体験はどれほど家族の気持ちを和らげることだろう。そして家族の情緒を安定させ介護力を高めることに繋がるであろう。看護婦は患者の衰弱が激しく看取りの段階になったことを家族に伝えながら、患者が痛みや呼吸困難でこれ以上辛くないように浅いセデーションの方法もあることも早めに話していくよう配慮している。
 患者と家族の時間を最優先にし、言葉かけは少なくても苦しい気持ちやねぎらいの言葉をかけながらじっと見守り続けている。看護婦の姿勢は家族と共に静かに患者を見つめながらも最小限のケアをしていることがよくわかる。そのことは、東病院の緩和ケアが外来受診時から家族ケアが始まり、ここに至るまでケアが継続されたからではないかと思う。家族ケアは私たちか家族を信頼し、家族が私たちを信頼していく時間の積み重ねが重要なのだと思う。

ホスピスは選ばれる時代

1)ホスピスのイメーシにズレがある

 継続的なケアやサポートシステムが乏しい中で、今後ホスピスやPCUへの要求がとても重いものになっていくだろうと危倶している。患者も家族も病気と闘い、医療機関や医療者と戦い、それまでの医療で満たされなかったさまざまな思いを抱いてホスピス外来や入院を希望していくのである。そのすさまじい経緯が電話相談を通してよく伝わってくる。マスコミが報道してきたホスピスのイメージは現実的ではない。
 今までの医療機関では達成できなかったあらゆる痛みがホスピスでは緩和でき、優しいアットホームな環境で手厚いケアが提供される所がホスピスであり、穏やかな生活ができる所、長期入院が可能な所、がホスピスなのである。しかし、現実はこれ以上治療ができないために一般病院から見放された患者の‘死に場所'‘特別な場所'と受けとめている人が多いことも事実である。

2)ケアの質が問われる

 ホスピスが厚生省から各自治体の認可によって年々増加し、現在、40施設が承認を受けている。年2回開催される全国ホスピスケア連絡協議会では、施設数の増加に伴いケアの質の問題が提起され始めた。その格差も広がっている実状を深刻に受けとめている。
 緩和ケアは各施設がもつ理念によって実践されていくものであり、ケアの積み重ねにより評価されていくものである。患者とその家族のニーズを医療チームがどこまで達成できるかによるであろうし、自らの実践を通して患者とその家族に伝えていくものであると思う。ホスピスの施設承認が自治体に移行してからホスピスに対するクレームも出始めている。電話はあくまでも相談者の一方的な情報であるために、事柄を判断することはできないが、‘相談者が受けた気持ち'はできるだけ真摯に受けとめていきたいと思うし、研究会が相談できる窓口であることを大切にしていきたい。ホスピスは日々の実践により実っていくものであるが、とかく建物などのハード面がホスピスのイメージの印象を強くしている。理念が暖昧でチームアプローチが遂行されていなければケアの質の低下に直結する。チームメンバーがそれぞれの専門性をどのように提供していくかを理解し、支え合い、互いに専門性を研鑽していかなければケアの質を維持していくことは難しいだろう。電話相談や全国ホスピス連絡協議会、また今回の実習先の実状や報告会などを通して、今後はホスピスも選ばれる時代に入りつつあるだろうと感じる。

まとめ

 今回の研修から多くの学びと課題を得ることができた。2ヵ月間を通して、仲間と共に「緩和ケアについて」考え、語り合えたことは私自身にとって大きな喜びであり、今後の活動を続けていく一つの財産になったと思う。互いに緩和ケアに携わる医療者として、また個性ある人間同士として影響し合いながら互いを高めていくことを実感てきた。
 今、私はホスピスケア研究会が継続している「電話相談」や「がんを知って歩む会」の活動が、緩和ケアの一端を担う大きな役割であることを再認識している。
 今後、研修で学んだがん治療についての最新情報や実習施設のホスピスの実状報告から得た情報を最大限に活用しながら、がん患者とその家族への対応に心がけていきたいと思う。さらに全国ホスピスケア協議会、がん看護学会、死の臨床研究会、緩和ケア学会などに積極的に参加しながら専門性を高めていきたい。また緩和医療に携わるメンバーとの交流をはかり、ホスピスケア研究会の活動が充実したものとなるよう努力していきたいと考えている。

 

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