患者や家族の信頼に応えたい
ホスピスケア研究会
平野友子
はじめに
私が所属しているホスピスケア研究会は現在発足後11年目を迎えている。この間、年5〜6回の定例研究会の開催、がん電話相談、がん患者と家族を対象とした教育サポートプログラム「がんを知って歩む会」の開催等の活動を継続している。定例研究会や「がんを知って歩む会」の活動を通して、がんの病状の変化と共に揺れ動く患者や家族の気持ちに対応することの難しさを日々痛感している。また電話相談では、直接家族からホスピスに関することや医療関係者に対する不満や苦情などさまざまな問題を投げかけられ、その対応に看護婦として心を痛めることもある。
この研修にあたり、緩和医療に対する系統的な知識を深め症状コントロールの進め方やチームアプローチなどが実際にどのように行われているかを知り、さらに実習での学びを通して今までのがん患者や家族への関わり方について振り返りたいと思う。
がん患者とその家族の気持ちを受けとめる
ホスピスケア研究会の電話相談や「がんを知って歩む会」の活動を通して、がんに関する情報に一般市民はとても敏感であると感じる。新しい治療法や薬、民間療法などについての問い合わせも多い。溢れるがん情報のなかで個々の相談者が訴える気持ちを受けとめながら、最新のがんの診断や治療法についての理解を前提とした対応が求められる。
1)がんと共存
多くの患者や家族は、「がん」と診断されたときから、今までの生活が一変するのではないか、という危機感と喪失感をもちながらがん治療をスタートしていく。治療を続けながらこの先どのような事態になっていくのだろうかと戸惑い、不安や恐怖のなかで生活を送る。家族も患者の病状を見守りながら気持ちが揺れ動いていく。「がん」は特別な病気ではなく他の糖尿病や高血圧と同じように慢性疾患であること、適切な時期に効果的な治療を受けながら病状が落ち着けば退院ができること、通院しながら在宅で生活ができること、病状によって治療が必要になったときに再入院しながら経過を見ていく疾患であること、ということを私たちは積極的に伝えていく必要がある。
2)再発・転移に対する強い不安や恐怖
国立かんセンター東病院・精神腫瘍字の立場から調査した結果によれば、がんと診断された時点で10%の患者が「うつ」と診断され、緩和ケアを受ける段階では患者の10%、再発や転移とわかったときは45%の患者が「うつ」になるという。このことは‘がんが心に与える影響’‘心や行動ががんに与える影響’がいかに強いものであるかを示している。この調査報告を聞いたときに、「がんを知って歩む会」に2回参加した一人の女性を思い浮かべた。1回目に参加したときには表情が明るく前向きな印象を受けたか、2回目の参加では別人のように表情が暗く、その違いに私たちも驚いた。彼女の気持ちを暗く憂鬱にしていた原因は再発だったのである。
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