患者さんは私たちの所へたどり着く前に、たくさんのものを失い、傷ついています。その“喪失感”を感じることか、コミュニケーションのうえで重要な“共感”につながるのではないかと考えます。
もうひとつ、ホスピスで働く看護婦に必要なこととして、“自己受容”があげられます。これには、自分自身と向き合うといった作業が必要ですが、それは大変つらい作業でもあります。自分の良い面・悪い面、自分の強さ 弱さなどを知ることで、自分自身を理解し、他人との関わりにおいて自分が何に同意し、何に抵抗感をもつのか、といった自分の反応をも理解することができます。そしてそれが理解できることで、コミュニケーションの中の自分の反応についてアセスメントができ、今度は別の見方をすることもできるのではないでしょうか。
また、患者さん自身にも“自己直面”を促すことが大切だと考えます。そしてこれらを通して、患者さんの心の奥にある思いを常に感じ、それに対し1個の人格である自分自身をそのままぶつけることで、魂の触れ合いといったホスピス本来のコミュニケーションをとることができるのではないでしょうか。
これらをふまえて、講義の中から学んだコミュニケーション技術について、今後の課題とします。まず、?自己受容として、自分自身を長所 短所を含めてかけがえのない存在として認める。?時々、自分の価値観や考え方を見つめることで、自分自身とのコミュニケーションをはかる。?患者さんの自己直面を促す意味で、対話の際、相手の言葉をまとめてくりかえす。その中で、感情を表す言葉に敏感になる。?相手が表現しやすい言葉を使ってくりかえす。?については、講義内の演習において、効果を実感しました。自分の話した感情が相手によってまとめられ、言葉として自分の中に入ってくるということは、自分自身を知るという意味で大変有効です。また、?については、たとえるなら“不安”という言葉はあまりにも大きく捉えようがないため、具体的な言葉を使うことで、話し手の感情に近づけるように思いました。しかしどの場合も気をつけなければならないことは、あまり相手の感情を予想し、先回りしてはいけないということです。その場合の予想は、あくまでも“自分”の感情であり、それを前提にした言葉かけには問題があるということです。
これらの具体的なコミュニケーション技術については、自分の中で常に意識していることで、少しずつでも身についていくように思います。しかし最も重要で最も難しいことは、その言葉の奥にある心を感じることであると思います。それらを感じる感性こそが、ホスピスで働く看護婦にとって不可欠ではないかと実感しています。
(3)クリーフケアの実際を知る
入院していた患者さんの家族に対する死別後のグリーフケアにおいては、まず家族援助について学び、実践する必要があります。家族援助については、他の問題に比較して、全体的に学ぶ機会が少ないように思われます。しかし“家族”というものをきちんと理解しないと、自分の価値観や考え方をもとにケアをすすめてしまう危険性があります。その家族援助という点が、家族の発達段階の認識が重要であることを学びました。
一般に“家族”といっても、その家族ごとに発達段階があり、それをふまえて家族背景や家族の考え方を理解する必要があります。そしてそれらの情報を十分にアセスメントすることで、家族の適応をある程度予測することができます。この予測によって、悲嘆に対する早期の予防的介入ができるのではないでしょうか。
この悲嘆に対する前段階の介入について、季羽倭文子先生は4つをあげています。まず、?残された時間が“限られた日々”てあるという認識のもとに、密度の高い家族関係を基盤に、目的を設定して暮らせるよう援助する。?“看病という行”を実践し、いたわり合う家族機能を高められるように援助する。
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