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慈山会医学研究所付属坪井病院
小澤香苗

 

はじめに

 1996年にがん専門看護師が認定され、来年にはホスピスケア認定看護師の誕生も予定されている。緩和ケア施設も年々増加の傾向にあり、施設のハード面もさることながら、がん看護、特に緩和ケアにおけるソフト面の質の向上がますます求められる時代となっている。
 一方、私自身は、在宅ホスピスの経験を含めて、緩和ケア病棟での経験が6年目となるが、自分のケアについて、未だ理論づけた評価に自信がもてていないのが現状である。現在勤務している緩和ケア病棟自体も、スタッフの育成、チームアプローチの評価、マニュアル類等の改訂・作成など、課題が山積みであると考えている。
 客観的評価ができない理由には、現在の職場でしか緩和ケアの経験がないこと、理論に基づいたケアの裏付けができていないことがあげられる。スタッフの人間関係では、全くといってよいほど問題がなく、和気あいあいとした雰囲気は我が病棟の自慢の一つであるが、それだけでは、緩和ケア病棟として、また緩和ケアナースとして、その成長が沈滞化に至ることが危倶される。
 今回、この研修参加の機会を得たことは、自分自身の成長はもちろんのこと、当院の緩和ケア病棟のチームにとっても、ケアの質向上のための貴重なチャンスになると考えた。
 そして今、研修を終えるにあたり、この2ヵ月間の講義及び実習においていくつかの学びを得ることかできたので、ここに報告する。

 

研修参加の目標と課題

1)研修参加における目標

(1)緩和医療の基礎を再確認し、修得する。
(2)これまでの自分のケアについて振り返り、自己や施設を評価し、問題、課題について検討する。
(3)他施設の人との交流、情報交換などを通し、ケアについて新たな視野で思考できる。

2)参加課題

 研修の参加に際し、持参、提出した「参加課題」である。自分が直面している問題 課題を2つの事例からレポートした。

(1)身体的な苦痛をある程度緩和できた後のケアについて
(2)患者の本心を聴くこと、見極めること(心理過程のアセスメント)
(3)家族との関わり・家族ケア

 

研修を通しての考察

1)講義内容を基にこれまでの自分のケアを振り返る

(1)心理過程のアセスメント及び精神的ケアについて

 今回、私の「参加課題」の一つに“身体的苦痛がコントロールされた後の精神的なケアについて”がある。肺がんの頸椎転移により下肢麻癖を伴ったSさんとの出会いがもとである。当時、とんなアプローチをしても全く関心を示されないSさんに、私はとても戸惑った。突然の下肢麻癖が生じ、歩けなくなったことかSさんにとってショックでないわけがないと思いつつも、何も話そうとせず、一見淡々とした、しかし他を寄せ付けない表情のSさんの反応に、私は自己嫌悪に近い思いを抱いていた。結果的には、約1ヵ月の関わりを通して、次第に散歩に行けたり、キャッチボールをしたりできる関係になれ、それまで考えようとしなかった退院も、自ら希望された。それでも自分の気持ちをほとんど表現されないまま退院され、10日後に家族に見守られて亡くなった。
 このSさんとの関わりを通して、自分の接し方が誤っていたとは考えていないが、同時によかったとも考えられない。なぜなら、Sさんの心理過程を分析する理論的な裏付けがなく、自分のアプローチがとのような影響を与えたのかを評価できないからである。

 

 

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