明らかにウイナーだということになるわけです。そういう影響が経済にも及びますが、勝ち負けというのは、これは仕方がないというふうに言わざるを得ないわけです。
さて、最後に、この地球温暖化問題はわれわれに何を問うているのかといいますと、その答えは、大量生産・大量消費・大量廃棄を旨とする20世紀型工業運営の見直しなんです。それを見直さないと、もう21世紀まで地球はもちませんよということなんです。じゃあ、大量生産・大量消費の文明というのは、いつ、誰が作ったのかといいますと、1910年代から20年代にかけて、アメリカで形作られた文明なんです。じゃあ、その後ろに大量廃棄という4文字をくっつけたのはどこの誰かといいますと、戦後の日本だと私は思うんです。例えばこの国では、ビルの寿命が35年としか見積もられてないんです。皆さま方ヨーロッパにいらっしゃれば、パリに行こうがロンドンに行こうが、どこに行っても、100年前、200年前に建てた建物に依然として人が住んでます。オランダなんかに行けば、千六百何十年に建ったというような、そんな建物にまだ人が住んでるわけです。確かにビルが長持ちする。日本のビルはあんまり長持ちしないと。つくっては壊し、壊してはつくるということをやってる。
なぜそうなのかということに関連して申し上げれば、ヨーロッパでは、建築学科というのは芸術大学とか芸術学部の中にあるわけです。ところが、日本では工学部の中にあります。ヨーロッパの建築家というのはアーチストなんです。意識としては。ですから、何か設計を頼まれれば、自分はここに20世紀のモニュメントをつくってやるぞと。100年、200年もつのは当たり前だというようなつもりでやるわけです。ところが、日本の建築家というのはエンジニアですから、やっぱりつくっては壊し、壊してはっくるというのをいわば仕事とするということになる。
さて、今から7、8年前に、『大国の興亡』という本を書いて大変有名になった歴史家にポール・ケネディーという人がいます。この人は、別の本の中で、次のようなことを言ってるんです。北欧3国とオランダとデンマーク・この5つの国は大変環境保全に熱心であると。この5つの国に共通していえるのは何なのかと問うた上で、次のように答えてます。「これらの国々では、環境に優しい経済活動ができるほど豊かであり、しかも環境問題に不安を抱いてきちんと発言できる中産階級が存在する」。ヨーロッパで中産階級という場合は、要するに大学を卒業した人、つまりミドルクラスというふうにいうんです。そして、「共同の利益のために国家が介入してもよいという伝統がある。したがって、環境保護の手段を実施することは、労働者の安全や子どもの福祉のために法律を制定するのと同じことなのです。これらの国々は、地球の温暖化だけではなく、発展途上地域にも大きな関心を寄せている。それは、おそらく、これらの国々の人々は教育水準が高く、人道主義に基づいたリベラルな文化をもち、世界情勢に目を向けているからであろう」ということなんです。
つまり、十分豊かであるということと、教育水準が高いということが、環境保全に熱心であるための条件だというわけです。確かにこれらの5つの国は、1人当たりのGDPというのは2万5000ドルを超えてますし、大学進学率も35%を超えています。確かに、豊かで教育水準が高い。翻って、日本を考えてみたらどうなのかと。1ドルを100円とすると、1人当たりGDPは4万ドルを超えてます。それから、教育水準は大学進学率が47%を超えました。にもかかわらず、環境保全に必ずしも熱心といえないのはなぜなのか。その理由は、本当は豊かじゃないからです。本当はあまり教育水準が高くないということなんです。数字の上では豊かで、教育水準が高いかもしれないけれども、本当はそんなに環境に優しい経済活動ができるほどゆとりがないのです。
それから、教育水準は、みんな大学に行くけれども、知的水準は決して高くないということなんです。例えば、ある雑誌で小学校・中学校・高校生について、各国の同年齢の子どもに理科の知識を試すと、日本はシンガポール、韓国と並んで、トップグループなんです。ところが、30歳、30代の男女に科学的知識の試験をして、そして各国を比較してみたら、なんとOECDの24カ国の中で、日本は後ろから3番目つまり、受験勉強の意味もないということです。
ですから、そういう意味で、やはりこの国を本当に豊かな、知的な国にするということが、環境保全のためには是非とも必要なことだということを申し上げて、私の話を終えさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
(文責・事務局)