そういうことを考えるのではなくて、例えばこんなことをすればいいわけです。よし、わかった、低燃費車を普及させるにはどうすればいいかと。低燃費車に対して、何か優遇する必要があるわけです。そうすると、自動車税というのがあります。自動車を買ったときに取得税というのを結構たくさん払わないといけません。それから、自動車を持っていることに対しても税金がかかると。だから、この際、燃費効率と税金を関係づけたらどうかと。つまり、低燃費車の税金を安くすると。今よりはぐっと安くする。今度は、燃費効率の悪い車の税金を高くすると。それがインセンティブなんです。低燃費車を買うことを動機づけるような、そういうインセンティブを社会の中にこしらえると。これが経済的措置と呼ばれるものの基本的な考え方なんです。ですから、例えば、どうしても6000?のセンチュリーに乗りたいというどこかの社長さんがいらっしゃれば、どうぞ乗ってくださいと。ただし、税金をたくさん払ってくださいよということなんです。
今、インセンティブという言葉を使いましたが、経済学は、これはABCからXYZに至るまで、ほとんどこのインセンティブという言葉一語に尽きるといってもいいすぎではないんです。このいろんな経済政策というのは、結局インセンティブを、ある望ましい方向、この場合だったら低燃費車を普及させるという目的があると。その目的を達成するためのインセンティブを社会の中に仕掛けるというのが、普通の経済学者の考える政策なんです。
そのインセンティブについて、一つおもしろい話を紹介いたしますと、1960年代の半ばすぎに、ラルフ・ネーダーというアメリカの一種のNGO的な人が、『どんなスピードでも自動車は危険だ』という本を書いたんです。この本は大変なベストセラーになったんです。そして、その結果、アメリカの連邦政府は次のような法律をつくったわけです。つまり、これから売り出す自動車については、シートベルトを付けておく。昔の自動車というのはシートベルトなんか付いてなかったわけです。シートベルトを付けることを義務づける。それから、エアバッグを取り付けることも義務づけると。それから、自動車の窓ガラスというのは、割れても散乱しないような、今の自動車は全部そうで、そういうガラスにすることを義務づけると。そういう法律をつくったわけです。
ところが、そういうことで、各自動車会社ともその義務を果たしたわけですが、その結果何が起きたか。自動車の事故は減ったんでしょうか、増えたんでしょうか。実は増えたんです。なぜでしょうか。安全運転をするインセンティブって何かということを、皆さん方、お考えください。事故を起こして死んだらかなわんからですよね。死ぬのがいやだから安全運転するわけです。ところが、シートベルトをやって、エアバッグが付いていて、窓ガラスが割れても散乱しないということになったら、少々無謀運転しても死ぬ心配はないわけです。あるいは怪我をする心配もない。ということで、無謀運転が増えるわけです。そして、その結果、事故の件数は増えたと。ただし、運転していて亡くなる人の数は激減したわけです。ただし、歩行者で、車にひかれて死ぬ人の数は増えたということだったんです。
ですから、本当に事故をなくそうと思えばどうすればいいか。ハンドルの真ん中に槍を付けとけというわけです。そうすると、ちょっとでも無謀運転してこうなると、槍がぐさっと突き刺さるから、誰も無謀運転はしなくなる。結局インセンティブというのはそういうことなんですね。
それから、次に、皆さま方の、この中にも屋根に太陽電池を取り付けていらっしゃる方がいるかいないかわかりませんが、いずれにしても今現在太陽電池というのは非常に高いです。屋根にその電池を付けようと思うと、普通の大きさのお宅でしたら、3キロワットぐらいの電池が精一杯です。面積の制約からして。そうすると、3キロワットを付けますと、大体300万円ないし320万円ぐらいのお金がかかるんです。一体1年間にどのぐらい電気が発電できるのかといいますと、もちろん場所によって、あるいは天候によってまちまちですけれども、約3200キロワット/アワーなんです。今現在、1キロワット/アワーの値段は25円です。そして、ご存じだと思いますが、その屋根で起きた電気は関西電力が買ってくれるわけです。電力料金と同じ値段で、つまり1キロワット/アワー25円で買ってくれるわけです。そうすると、屋根で起きた電気を買ってもらうと、ちょうど8万円になります。そうすると、1年間に8万円しか儲からないということになりますと、320万円だとすると、元を取るのになんと40年かかる。だから、やめとこうということになるわけです。よほどの環境保護に熱心な人でないと、取り付けられない。