聴講者のメモから
広告業界の第一線で働いてきた新井氏の環境問題への「こだわり」と「いきざま」。
氏は1970年、高度経済成長がピークを迎えるころ広告代理店に入社し、約10年間に数百本のテレビCFを作った。CFは短い時間の中にあらゆる情報を詰め込むいわば足し算の世界である。
次に氏は環境ビデオ、バックグラウウンドビジュアル―BGVを作り始めた。環境ビデオというのは、カメラを固定し、編集をせずにリアルタイムを基本に制作する。音楽は加えない、人物は出さないものの作り方としては引き算の世界である。
しかしながら、この環境映像が日本で人気があるというのは、自然環境が悪化したことにほかならない。氏はこうした危機感から「さらば、惑星」という歌を作った。これは人類が地球上の自然環境を破壊した揚げ句に宇宙船にのって他の天体に集団移住するという内容である。
さらに文学作品としては「サンセット・ビーチ・ホテル」をはじめ「サンライズ・ステート・ビル」、「ヴェクサシオン」、芥川賞を受賞した「尋ね人の時間」など一貫して環境問題を扱った作品を書いてきた。
海外では、ジャン・ジオノの「木を植えた男」が環境問題作家として著名である。これは、南フランスの岩と草ばかりの不毛の大地にひたすらドングリを植え、森をつくった男の物語である。
現在の日本は、木を植えるどころか、木を切り倒してばかりいて、自然環境を破壊している。また精神も荒廃し、見るも無残な荒れ地になっている。木を植えなければならに土地というのは、まさにこの国である。日本人の心の荒野に、今こそ哲学の木を植えなければいけない。「前人木を植えれば、後人涼し」。ナショナル・トラストの精神である。
われわれが今森を守れば、21世紀の子供たちが喜ぶというわけである。