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またナショナル・トラストという制度を作ったイギリス人とは人類の歴史の上で評価されるものではないかと思っています。

 ナショナルパークというシステムの創出は19世紀の大きな発明だということです。19世紀にはいろいろな機械の発明もありますが、そういうものは新しい機械の出現でどんどん乗り越えられていきます。それに対して国立公園という発明は時代がたつに従ってその価値はますます高まっていくという点で、画期的なものだと言われております。

 そういうものがわが国で広がったのも、先ほど申しました鎌倉が最初であります。続いて知床での原生林を守ろうという運動であります。当時の斜里町の町長の藤谷 豊さんは、戦前及び戦後に入植した人々か非常に自然が厳しいために原生林を切ってそれを売って離農していった跡地を、さらに列島改造論で別荘地として売られる動きに対し、これではいけないというので思い悩んでいる時に、このイギリスのナショナル・トラスト運動のことを知って、これだというので「知床で夢を買いませんか」という運動を始められました。それから20年たってついに昨年、1997年にその目的を達したわけです。全国から4万8000人もの人々か合計5億1800万円のお金を、1口8000円ずつ斜里町へ送られ、土地を町が買い戻したのです。

 その運動が始まる時私はずっと新聞に記事を書いておりましたか、イギリスなどではキリスト教の慈善の伝統もあるが、日本の場合はどうだろうかと思っておりました。50年ぐらいはかかるだろうなと思っていたんでずけれども、それが20年で予定した土地を買い戻したわけですね。そして新たに昨年の秋から、今度は「知床で夢を育てませんか」と、1口5000円で募金活動か始まっております。既にもう各地から応募が進んでおりますが。こういう形で日本のナショナル・トラスト運動も広がってまいりました。

 たまたまこの知床の5周年記念シンポジウムが現地で開かれ和歌山県田辺市の天神崎や長野県の妻籠の人々、それから近くの小清水町の人々か集まりまして、話し合われました。その結論として「知床宣言」か採択され、これに基づいてこれから全国にこういうナショナル・トラスト運動を拡大しようということで、各地の運動の連絡協力組織として「ナショナル・トラストを進める全国の会」というものか作られ、会長に藤谷町長がなられたわけであります。それが10年たちまして1992年に社団法人になりました。それか今日この講座を主催している社団法人日本ナショナル・トラスト協会であります。

 この間に毎年全国大会を開いています。最初が和歌山県の天神崎、続いて横浜、千葉県の佐倉、それから足利市、世田谷区、あるいは埼玉県の大宮、北海道の小清水町、というふうにして16回。昨年は三重県の津市で開きましたし、今年は八戸で開いたこともけさ原先生が報告なさいました。こういう形で、各地を持ち回りなからその地域の運動を激励し、またその経験にお互い学び合うということであります。最近の傾向では、そういう八戸の種差海岸を守る「小さな浜の会」とか軽井沢ナショナル・トラスト、あるいは富士山ナショナル・トラストとか地域の運動がずいぶん増えてきました。それと自治体がこの運動に注目して、自治体と住民が協力して運動しようという、神奈川のトラストあるいは東京・世田谷、埼玉、大阪、あるいは岡山と、各地で運動が展開されてきております。

 最後になりますが、直面する問題として、やはり法的な制度をもっと整備しなければならないということです。それと地価の壁が高いものですから、こういうものに対してどのように取り組むかということです。いま各地で土地所有者とトラスト組織の間で保存契約を結んで運動を展開しているところがあります。

 こういうことでございまして、駆け足で日本と海外諸国、とくにイギリスのお話をしましたけれども。これらの運動に共通する特徴は、まず住民の自発性にもとずいた活動であることです。自分たちの手で環境を守るんだということであります。それから協力性、そして教育効果ですね。例えば大阪の久宝寺小学校の子供たちはクラスでこの運動のことを知り、一人200円ずつお小遣いを貯めて、40人のクラスで8000円になったと。それで知床100平方メートル運動へ送金してきました。それに作文がそえられていました。私たちはまだ子供なので北海道に行きません。しかし大きくなったら私どもが夢を買った知床の原生林の下で同窓会を開きますので、ぜひそれまで大切にしてくださいと書いてありました。そのように文字通りの草の根の方々の募金、4万8000人もの人の募金が、

 

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