日本財団 図書館


彼はそこで例の『第二次世界大戦回顧録』を書くわけです。一国の首相がノーベル文学賞をもらったわけですから大変なものであります。そこもチャーチルか寄付するというと、彼の友人たちがその周りの自然をも匿名でお金を集めて買い取って、一緒に寄付しています。こういう歴史的な建物が、今やイングランドとウェールズと北アイルランドに200、それから美しい庭園が150とか。規模がものすごく大きいわけですね。産業革命時代にできた運河あるいは鉄橋、それから村落全体をナショナル・トラストが買い取って管理しているところもあります。

 さらに1960年代から自然海岸が壊されるというので、ネプチューン計画という特別な買い取り運動を始めまして、もう既に六百数十キロメートルの自然海岸をナショナル・トラストが管理しているわけであります。それは買い取ってただ保存するというのではなくて、そこで子供たちの水泳場にしたり。ヨットハーバーなども作るわけですが、それも沖合から目立たないように入り江みたいのを作るとか、あるいは駐車場を別なところに移すとか、そういう形で環境を整備しています。ですからナショナル・トラストでは保存とか活用のバランスを非常に重視しています。

 単に保護するだけではなくて、そこで例えば子供たちの芝居をやるという。けさ原文兵衛先生が訪ねて行かれたというコーフ城というお城がイングランドの南の方にありますが、。ここはクロムウェル革命の頃の史跡なんです。ヤング・ナショナル・シアターといいまして、そこで子供たちに当時の服装をさせて芝居をする。それは専門の俳優あるいは監督さんもいるんです。彼らと子供たちが一緒になって、その同じ歴史の場で歴史を追体験させるという、教育の場としての利用なども行っております。この中でやはりボランティアの果たす役割というのが非常に大きいわけですね。

 イギリスのナショナル・トラストは、ロンドンに本部があって各地域に支部があるわけです。日本の場合とそこが違うわけですね。日本の場合は知床とか天神崎とか、各地で運動が先行して、それの横の連絡として我々の社団法人日本ナショナル・トラスト協会があるんですが、ロンドンの場合はその発足の時からロンドンに本部があって大きな雨傘を、アンブレラを国内にかけているわけですが。そういう形で運動が展開されてきています。ナショナル・トラストとの雇用関係にある専門のガーデナー(庭師)とか、あるいは建造物の修理をしたりする人たち、あるいは専門の事務職員たちが、3000人います。だから非常に大きな組織ですが、その他に全く無料で労力を提供しているボランティアか3万人もいるのです。

 こういう形で運動が展開されていますが、第二次世界大戦後、この運動はオーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、あるいはフィジーとか、主に英連邦関係の国々へ広がってまいりました。そして最近ではヨーロッパ諸国でも同様なものがオランダとか、またエストニアなどニューデモクラシーの国といわれるかつての東ヨーロッパでも、そういう運動が出てまいりました。そしてそのそれぞれの国々のトラスト関係者が集まって3年に1ぺん国際会議を開き、お互いの経験を交流しあっています。全く対等の立場で集まるわけですが、同じナショナル・トラストという目的を目指しているものですから、非常に友好的な国際会議であります。わが協会からも、私や恵事務局長が参加しています。これまでに例えばイングランド、バーミューダ、ニュージーランド、オランダそして今年はプエルトリコで開かれました。

 私は思うに、このナショナル・トラストという制度はイギリス人が考えついて始めた運動です。その点ではアメリカ人がナショナルパークつまり、国立公園というものを初めて考えついたことと似ています。1872年にアメリカのワイオミング州の一画にありますイエローストーンの原生自然を訪ねた当時のアメリカ人が、これは素晴らしいと。これはアメリカ国民及び人類のために保存すべきだということで政府に働きかけて、そしてナショナルパーク・アクトを作るわけですね。国立公園法を。それがきっかけになって
全米に国立公園が広がり、さらに現在では100を超す国で1200もの国立公園が地球上にあります。わが国でもアメリカに遅れること60年にして1931年に雲仙とか霧島とか瀬戸内海国立公園が指定され、現在では知床など30の国立公園が指定されています。これと同様に、ナショナル・トラストという、こういう一種の社会システムをイギリス人が発明した、と言わてます。そういう点で国立公園の思想と社会制度を最初に作ったアメリカ人、

 

前ページ    目次へ    次ページ






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION