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講演

わが国と海外にみるナショナル・トラスト活動の動向

木原啓吉

【司会】本日最後の講座となりました。私どもの方の日本ナショナル・トラスト協会の副会長、木原啓吉氏の「わが国と海外にみるナショナル・トラスト活動の動向」というお話をいたします。

 先生の尽力で北海道の知床100平方メートル運動とか、あるいは和歌山県天神崎の地主運動等が進展しました。現在4、50のナショナル・トラスト団体がございますが、私どもの社団法人日本ナショナル・トラスト協会はその連絡調整をやっている団体でございます。

 【木原】私は今ご紹介にあずかりました通り、ジャーナリストとして環境問題を29年ほど追いかけてまいりました。それから17年ほど大学で学生に環境政策論などを教えております。そういう体験からして私思いますのは、わが国の環境政策の原点は住民であるという確信を持っております。住民がまず身近な環境に異変を見つけますと、大気が汚れているとかあるいは水が汚れているとか、そうしますとまず身近な自治体に対策を迫る。自治体はそれに応えて条例を作ったり要綱を作ったりして対応する。そしてそういう条例が各地に広がったところで国が重い腰を上げて法律を作る。大気汚染防止法とか水質汚濁防止法とか、あるいは自然環境保全法、また最近では環境基本法などわが国の環境問題に関連する法律のいずれも住民、自治体、国という形で展開されて制立しています。そして最近では国際協力ということが重要な課題になっているわけであります。

 ですから私は、その住民がどういう目で自分たちの地域の環境を見ているかということに注目してまいりました。住民がしっかりした環境を見つめる目といいますか、あるいは環境の思想と言ってもいいかもしれませんが、そういうものを持っているところでは環境はよく整備されておりますが、そういうものに対してあまり関心のないところでは、みるみるうちに環境が悪くなっていくという例を多数見てまいりました。そういうところからやはりこの住民運動とか住民の活動、その根底のある住民の自発性というものが非常に重要なことではないかと思います。それはその地域の環境だけではなくて、その国の環境の状況も、その国の国民の環境観を反映していると思います。私も初めて1970年にヨーロッパの国々を見て回ったことがありますが、自然環境が美しい歴史的環境が非常によく整備されています。これを見て、車窓の美学が確立していると思いました。バスに乗っても汽車に乗っても、窓から見る景色そのものが非常に美しい。どうしてだろうと。やはりこれもその国民の環境観を表現しているものだと思うのです。

 それをもっと大きく言って、地球の環境の将来、これもやはり人類の環境観によって規定されるというものではないかと思います。ストックホルム会議が1972年に開かれました。20年後の1992年にはブラジル会議が開かれましたが、そしてそれに基づいて昨年は京都での地球温暖化防止京都会議などが開かれました。こういうものも、そういうことを通じて人類の環境に対する見方を、質を高めようと、鍛え上げようという、一つの試みではないかと思っております。そういうものがきっかけになって地球環境の認識も高まってき、またそれに対する対策も展開されてくるものではないかと思っております。

講師略歴と主要著書

東京大学法学部卒業、朝日新聞編集委員、千葉大学教授を経て現在、江戸川大学教授、中央環境審議委員会、国有財産中央審議委員会、文化財保護審議委員会専門委員 社団法人日本ナショナル・トラスト協会副会長。
「歴史的環境」「暮らしの環境を守る」「ナショナル・トラスト」など。

 

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