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講演

 

環境から見た21世紀

加藤尚武

 

講師略歴と主要著書

東京大学文学部卒業 千葉大学教授等を経て京都大学大学院文学研究科教授。
 哲学、倫理学者。
 「ヘーゲル哲学の形成と原理」「哲学の使命」「ルベイオエシックスとはなにか」「環境倫理学のすすめ」ほか多数。

 

 【司会】 加藤尚武先生は現在、京都大学大学院文学研究科教授です。もう一つ、京都大学のボクシング部の部長となって、自分でもボクシングをやっておられるということでございます。

 【加藤】 21世紀のことがわかったら株でも買って儲けようか、先のことがわかれば必ずお金は儲かると言う人もおります。確かに株価は下がるという予測があっても当たりさえすれば必ず儲かるという構造になっています。文化の未来予測が当たった例はほとんどないわけで、大抵の予測は外れます。今から申し上げることも、もしかしたら外れるかもしれないわけです。

 20世紀になると同時的に世界中のデータが集められるようになったという点は、過去の時代とは大変大きく違ってます。地球全体のデータという考え方ができあがったのが大体19世紀ではないかと思いますが、マルサスが『人口論』を書いた時には、イギリスの同時一斉的な人口統計がありませんので、時期も地域もばらばらな統計から大体類推して、イギリス全体の人口を考えるということが行われたわけです。

 現在では人工衛星による観測とコンピューターによる集計が行われるようになりましたので、データの精密度が飛躍的に拡大しました。そこで最初に地球全体の人間の生活の未来像をちゃんとデータで計算してみるということをやったのが、1970年代の有名なローマクラブ報告です。このローマクラブ報告の特徴は、まず地球上のデータを均一化した統計でグローバルなデータをとって、そこから未来予測を考えるという新マルサス主義にあります。その後手法は精密度を増してきたので、何とか未来の予測もある程度はできると思われるわけです。

 地球全体という条件はかえって未来予測にとっては都合がいいのです。イギリスのことだけ考えていればいいというと、イギリスのごみをフランスに捨てた場合、地球全体で考えるということになると、どこかで捨てたごみは必ずどこかにあるということになります。つまり有限性という条件がはっきり成立するので、かえって都合がいいと思うわけです。

 メドースがローマクラブ報告を書いた時に、地球の人口はまだ50億になっていなかったのですが、19世紀前から、急激に増え始めた人口がやがて青天井で増えた場合、地球は絶対維持できない状態になる。需要と供給のギャップは解決不可能になるという予測構造が基本になっていたわけです。

 その後、皮肉な話で、石油があと地球に20年というデータが毎年出されております。ずいぶんふざけた話です。「残存石油量の予測の毎年の比較」というグラフを載せている本もあります。今日では埋蔵されているエネルギー資源を使った場合に100年ぐらいはもつのではないかという予測の方が主流です。石油が枯渇してくると、経済的に見て低品位の石油もだんだん使うようになるとか、石油以外のものをエネルギー資源として投入することになるとか、食いつなぎ策を考えていけば100年よりもっと長くもつという予測もあるわけです。

 人口は、ローマクラブ報告の場合にはまっすぐに上がり続けるという予測であったわけですけれども、その後の国際連合の人口研究所などの発表では、人口はいつかピークを迎えて、定常化に向かう。今は人口の増大期でもいずれ最上期を迎えてやがて定常化に向かうという予測が主流になってきました。

 

 

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