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 そこから、どういうことになってきたでしょうか。保障ばっかりが要求されることになってきた。もっぱら権利の保障が要求されることになったんですね。そして力が弱いとなると必ず集団を組み、組織を固めて、要求に要求をやってきたわけです。そこで選挙があれば選挙のある度に、そういう要求をあおる人が、あるいは少なくとも押さえない人が(笑)当選するんですよね。そうしたらどうなります。行政の仕事は増える一方です。第一どこの県庁でも見てください。戦前の県庁と現在の県庁です。比較にならないほど大きいですよ。もちろんこれはいろいろなことが複雑になったり、あるいは人間が増えたりということもありますけれども、しかし行政の仕事がものすごく増えたということが背景ですよね。こういうやり方というのはどこかでつまづくことは当たり前です。なぜか。行政の仕事は皆金がかかるんですから。それは税金ですからね。高福祉国家はだから必ず高負担国家です。間違いなく。必ずそうです。スウェーデンがそうであるように。しかし日本を見てください。この前の選挙だってそうですよ。これだけ財政が破綻しているのに何を言うかといったら、減税をやれ、なくしろ、恒久化しろ、あるいは商品券をばらまけ等々という主張ばっかりです。つまり保障の面、権利の面が強調されて、税金といったら義務の面は一向に強調しないといった、いまだにそうした習性が支配しているんですね。しかしこの方向は、高度の経済成長の可能性が失われるとつぶれるはずです。福祉国家の破産。バンクラプシー・オブ・ウェルフェアステーツということは、すでに1970年代から言われてきているんですね。

 そうしますとどうなります。特に日本はこれから高齢者が急増するんです。さらに環境の破壊もものすごく進んでおります。今までの考え方だと行政の出動を要請することばっかりです。しかし、もう行政は金がありません。そんなことを言われたって。とするとどうなります。道は一つしかないです。たった一つしか。自分らでできることは自分らでやるという他に道がないんですよね。助け合いです。お互いの助け合いでやるという道しかないのです。

 事実、こういう状況の中で、このところ助け合いの組織が急増していることはご承知の通りです。広い意味のNPOです。広義のNPOですがね。広義とか狭義とかいうのは、例えばアメリカでそうであるように、狭義のNPOがあるからです。ここではNPOは、いわば人助けの組織だけです。自分の財政基礎は他に頼ってでも、それでもって人を助けるという組織しかNPOに入りません。私は生協に関係しておりますが、生協は助け合いの組織です。自分の財政基盤は自分で確保しながら、互いに助け合っていくわけですね。これはアメリカではNPOに入りません。けれどもヨーロッパでは、そうした非営利団体も完全にNPOに入ります。生協はその代表的なものの一つです。広い意味のNPO。もうちょっと別の言葉で言うとNGOと言った方がいいのかな。非政府団体、つまり企業でも個人でもない、そして行政でもない、その中間のものです。そういう団体が次々にでき、それらの非営利的な活動が急速に拡大してきた。これがここ十数年来非常に目立ってきている傾向です。

 これらの活動は、まずボランタリーなものですが、わが国でこれが脚光を浴びてくるのは、あの震災からです。震災はこの点でもいろんなことを教えてくれた。あの震災はわが国にもこれだけボランティアの潜在力があるのかということを、教えてくれた災害ともなりました。あの1月17日からその年の10月に至るまで、10ヵ月の間にボランティアに参加した人は延べ130万人になります。そして力強いことにはそのうち71%が20代と30代です。若い人々です。近頃の若い者は、と言って、大学で私はよく怒るんですけれども、あの震災の時はさすがだと思いましたね。震災は、日本の持っているボランティア活動の潜在力というものを知らせてくれた、と言ってもいいと思うんです。

 むろん以前からもあったことではありますが、震災がやはり大きな契機となって、わが国でもNPOの組織化が急速に進むようになりました。あれからちょうど2年ほどたちました1996年の末でしたけれども、日本でその頃までにできたボランタリーな組織、NPO、の数は8万5千だそうです。ちょうど同じ頃にイギリスの関係者と会うことがありまして、日本でこういうものがNPOと考えられるけど、イギリスではどうだと尋ねたら、イギリスも同じでしたね。アメリカとは違うんです。そしてイギリスでは、人助けと助け合いを含む広義のNPOは、既に180万あると言っておりました。イギリスの人口は、

 

 

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