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ちょうどあの震災があった直後でしたけれども、2月の初めです。厚生省筋から、私が今お世話を承っている兵庫県長寿社会研究機構に実態調査の依頼が来たんです。1ヵ月でもって大体3,OOO人ぐらいを対象にした調査です。聞き取り、アンケートを入れまして。それを1ヵ月でまとめて出せというんです。そんなばかなことできっこないと我々は言ったんですけれども、緊急時です、とにかくやろうということで始めました。それにもたくさんのボランティアの人が来てくれたわけです。

 それでこれができたんですけれども、実はあの震災では高齢者の、亡くなった人が非常に多いんですよね。その原因を探るということも調査の一つの項目でした。あの震災が直接の原因で亡くなった人というのは、現在の段階で約6400人ほどおられます。そのうちの41%が高齢者なんです。被災地域の高齢化率というのは、全国平均ですから15〜6%なんですね。15〜6%の高齢化率の中で亡くなった高齢者の比率とが41%ということは、どんなに多く高齢者が亡くなったかということを示しています。

 その原因を調査するのも一つの調査項目だったんですが、いろいろな原因がもちろんあるんです。お年寄りは1階に寝ているとか古い家に住んでいるとかいろいろな原因があるんですが、最も大きい原因は、こういうことでした。都心部、神戸の都心部では、調査の質問にこういうふうに答えた人々が多かったんですね。年寄りが多く亡くなったと言うけれども、第一どこにどういう年寄りがおるか全然知らなかったというんですね。知らないです。だから助けに行こうにも、助けに行きようがなかったというのが最も大きい原因なんです。

 ところが同じ調査を北淡町でやりました。あれはご承知の通り淡路の北の方で、あそこから活断層といいますか、ずーっと走っているわけですね。だからその意味の震源地ですけれども。あの淡路の北です。そこで同じことをお聞きしましたら、こういうふうな答えが返ってくるんです。いや、この辺ではどこにどういう年寄りがおるかを知っているどころじゃない"どの部屋に、どんな年寄りが、何時ぐらいから寝ているかも知っている、というんですよね。昔の村というのはそういうものだったわけですね。つまりコミュニティーがあるわけですね。コミュニティーがあるんです。だから震災が起こった時にすぐ、あそこの年寄りは、ということで人々がかけつけたわけです。

 しかもその場合に非常に活躍しましたのは、これは消防団なんです。ご承知のように都心部には消防団というのはありません。消防署はあるけど消防団はありません。消防団というのは地域のコミュニティーのボランティア活動です。これがものすごく活躍したんです。つまり、こんどの震災は、コミュニティーというものがあんな震災の時にどんなに強いかを、よく教えてくれました。都心部にはそれがない。だから建物が壊れたということもあるが、人間関係そのものがああいう災害に弱いわけですね。近代的な都市生活というものが、ハードの面でもどんなに脆いものであるかがはっきり示されたわけです。

 もう一つ申し上げましょう。私の家は幸いに倒れなかった。家の中はぐちゃぐちゃでしたが、家は大丈夫でした。しかし、家をなくした人がたくさんおられるんですね。そして家をなくした人で、こういうふうにおっしゃった人がたくさんおられました。震災で何もかも失ってしまいました、しかし人間に一番大切なものを手に入れました、というふうにおっしゃった方々ですね。何もかも失ったけど人間に一番大切なものを手に入れました、という人がたくさんおられたんです。その人間に一番大切なものというのは何を言ったのかというと、昨日までろくに挨拶もしたことのなかった人が、共に被災して、壊れた瓦礫の山を目の前にしてですね、「あの朝は非常に寒い朝でしたよ、1月17日というのは」と、その冷え込んだ、寒い廃虚の前に立って、お互いに肩を組み合って慰め合い、励まし合ったことを言っているんですね。その時に人間の心の通い合いを初めて感じた。心が通い合うのを、本当に触れ合うのを感じたのです。

 これは社会学的に言ったら、コミュニティーの関係でしょう。コミュニティーというのは、そういう心の通い合いのある関係を言うわけですね。単に地域社会のことじゃないです。従ってコミュニティー、そういうものが人間にぬくもりを生みジーンとくるものを与えるのです。人間的なぬくもり、人間的な感動というものはコミュニティーの中にしかないということも、あの震災はよく教えてくれました。だから震災後神戸市も兵庫県もコミュニティーを何とかして作ろうと、町の中に何とかしてコミュニティーづくりをしょうとしました。

 

 

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